忍者ブログ
このブログは福田文庫の読書と創作と喫茶と煙草……その他諸々に満ちた仮初の輝かしい毎日を書きなぐったブログであります。一つ、お手柔らかにお願い致します……
[36] [35] [34] [33] [32] [31] [30]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 hayamine.jpg
題名/『帰天城の謎 ~TRICK 青春版~』
著者名/はやみね かおる
出版社/講談社
個人的評価/15点
内容/
 ドラマTRICKとはやみねかおるのコラボ仲間由紀恵と阿部寛の人気ドラマ、TRICKの世界を、はやみねかおるがミステリー小説にした。山田奈緒子と上田次郎は過去に出会って、事件を解決していた!?

要約/単純なノベライズよりはマシと言うレベル。あくまでドラマをそのまま文章におこしたようなノベライズと比べれば小説としての意味合いはあるものの、企画した人間は頼む相手を間違えた。トリックの世界観を表現するにははやみね氏では方向性が違うと思う。とりあえず作者のトリックが好きという言葉を信じての15点。



 早いもので今年ももうすぐ終わろうとしている。そしてブログは全く更新出来てなかった。何で更新が滞っていたかと言うと、新人賞に応募する小説を書いたり、友人がとうとう連載漫画家になったので嬉しい反面嫉妬心を飼いならすのに手こずったとか、その言い訳はいくらでもあるんですが、ネットのメリットとデメリットがある中で、たまたまデメリットが作用して気が滅入っていたということもあります。
 ただ、先日に日記でも良いから書いてねという趣旨の激励をある方から頂いたんで、もうその気になっちゃっての再スタートである。

 前半に個人的なことを書いてしまったので早速書評に取り掛かる。数え切れないとは言わないまでも、今年も幾つかの新刊は読んできたのだが、どうして再スタートの一冊目にこの本を選んだかと言うと、今年の「このミス」に選ばれていたら嫌だなぁという気持ちで選んだ。

 トリックというドラマは、まだ世間的にもそんなに評判を得ていなかった最初の時から観ていて、映画版もしっかり観に行ったので個人的な思い入れが強いので酷評につながったという向きもある。
 ただ、冒頭に書いたように人選ミスであることは否めない。私ははやみね氏の作品を人に自慢できるほどは読んでない。だが、たまにアンソロジーとかではやみね氏の作品が入ってたりすると、確かにミステリではあるけどジュブナイルに定評のある氏の作品は露骨に浮いている。そもそもはやみね氏は小学校の先生として本嫌いの生徒に本を読んでもらいたくて書き始めた作家なので、作風にブレがないと評価することは出来る。ただ青い鳥文庫をメインにご活躍されている方にトリックのノベライズはいかがなものだったかと私は思う。トリックをNHKで天才てれびくんの後に放送するようなものだ。要するに合わないのだ。

 ここからは若干、俺が思うトリックみたいな話になってしまうが御容赦願いたい。
 本来、トリックというドラマは、シニカルなブラックジョークによって成り立っていると思う。まず、舞台になるのは因習にとらわれた村か、振興宗教団体関連のどっちかである。これは、多少の無茶を押し通すための設定と、特に前者に対して言えることだが、金田一シリーズのような村を舞台にしたミステリに対するパロディ的な要素がある。トリックで山田と上田が挑む超常現象や霊能力なんかは、もし仮に矢部じゃなくてちゃんとした警官が本気で捜査すればすぐに解決するものが多い。つまりミステリにおけるクローズド・サークル(※1)としての縛りなのだ。
 山田がインチキを暴こうとすると信者にそれ以上の追求を邪魔されたり、警官が矢部しかいないから国家権力を誇示出来ずに事件の歯止めが効かない故の展開が多いのである。そして出てくる村人や宗教家はみんなブラック過ぎるくらいのデフォルメがされている。

 そして上記ような舞台の中で起こる解き明かすべき殺人事件は、往々にして殺人が記号的なのだ。この作品における死体とは、つまり手品師がシルクハットから出す鳩みたいなもので、不可思議なことが起こった結果として必要なだけなのだ。そこには上記したようなブラックユーモアのせいもあるが、殺人に対する深い悲しみや怒りなんかはあまりない。シリーズ前半で顕著だった真相が暴かれた後の犯人の服毒自殺も早い話、話が終わるという幕閉めの意味合いで毒を呷っている印象が強かった。ネタがばれた手品師やペテン師は早々に舞台を降りなくてはならない。その降ろし方が服毒自殺だったのだ。

 こうしたもので構成されている作品をジュブナイルで手腕を振るう作者が描くのはやはり無理があった。出てくる村は一応、因習があり、伝説があり、そしてお宝ありと、トリックの作品で使う舞台としては問題なかったのだが、それぞれが浅く、インパクトは薄い。山田が中学生で上田も学生と言う点もあるだろうが、死体が転がらないのもその一因だろう。一応、超能力者としてのポジションに、村の伝説にある鬼ヶ谷玲姫という人物を出してはいるんですが、この人物がまたキャラが薄い。そしてした事と言えば、登場人物を失踪させたことくらいだが、別にすごいトリックを使って消失トリックをやってのけたのではなく、禁じ手とでも言うべき、隠し扉があったんですオチに近いのは減点。そして、登場人物を操った方法も、心神耗弱状態によるものというオチ。
 結局、本編で推理出来得る謎は強いて言えば、帰天城はどこに消えたのかという点と玲姫たちの正体とはってとこなんですが、どっちも推理と呼べる代物ではありません。前者は地図見れば何となく分かりますし、後者に至ってはただの語呂合わせを博識の上田がしただけ。もっとも、本家のトリックにも真っ当な推理があったかと言えば返答に困りますが、バカミスに近いトリックはあったし、インパクトの強い超能力者が一人はいたものです。言わば、敵側に決め手がないのが本作です。

 じゃあ山田と上田のコンビはどうかと言うと、こちらもまだ中学生と学生の時代と言うこともあって、お互いにそこまで性格が悪くなく、面白みに欠けます。そしてトリックお約束の聞き間違いは、(編集部注)という形でツッコミを入れるという念の入れようですが、揃いも揃って本気で詰まらない。本家でも別に抱腹絶倒ということは間違いなくないですが、あれはドラマでやるから良いのであって、小説で再現するのは無理です。仮にやったとして、受けなかったギャグの笑いどころを改めて解説するような体裁を取ったのには疑問が残ります。
 ここまで読んで、そもそも山田と上田ってドラマ版で初めて出会ったんじゃないのかと思われる方もいるだろう。この点を解決するのに作者は一番苦労したと言っているが、はっきり言ってこの解決法は最低である。ネタバレでも構わないから書くが、忘れただけなのだ。正確に言えば、顔を合わすとまた事件が起きそうだし名前も覚えられなかったから忘れてやるというものだ。どうやって苦労すればこういった解決法を商業誌で使えるのかと、ある意味では、はやみね氏に敬服した。

 あとがきを読む限り、作者はトリックの完全新作オリジナル書き下ろしを要求されはしたが、山田を中学生にしようと言い出したのは自分である。この打ち合わせをした時には、こんなスムーズな打ち合わせをしたのは初めてだったと振り返っていらっしゃったが、打ち合わせの段階からして失敗だったのだ。確かに、我々素人が二次創作をしたりする上で、今まで描かれなかった時代を書くとか、自分なりのオリジナリティを出すという作業は非常に面白い。ただ、この面白さは実は自分だけが面白いということが往々にしてある。自分もかつてハマリまくったゲームに『二重影』という時代劇ものがあり、この二次創作を書いた際には、主役は自分と同じ名前の天才剣士にして自分の養父を子連れ狼、そして友人は柳生十兵衛という設定で書き殴り、読んだ友人に嘲笑されたことがある。
 つまり、本書を読んで一番楽しいのは、トリックファンでもなければ、はやみね作品のファンでもなく、はやみね氏本人だということだ。全てが失敗した二次創作崩れの作品だが、作者が楽しそうなのと、単純なノベライズにはしなかったという点だけは評価したい。


※1:クローズド・サークル(closed circle)はミステリ用語としては、何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品を指す。アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』が代表例。過去の代表例から、「吹雪の山荘もの」「嵐の孤島もの」の様にも呼ばれるが、上記クリスティの『そして誰もいなくなった』は実は嵐によって隔絶したシチュエーションではなかった。
PR

コメント
ミラクル三井の不在
新人賞への執筆お疲れ様。ボクは今年一本の短編ホラーしか書けなかったよ。

記号的な死を批判しているけど、そもそもミステリにおける死者への人権は端から無視されているものじゃないかな。死体は犯行を推察するものとして人間だった頃の尊厳を奪われ、犯人と探偵を結ぶ単なる点にまでその存在価値を落とされているんじゃないのかな。

出来がどうであれボクとしてはこの作品、表紙が鶴田謙二で既に満足。
しかし君、毎回評価の低い作品しかレビューしないね。
【2010/12/14 23:14】 NAME[阿井] WEBLINK[URL] EDIT[]
無題
阿井君がまたミステリを書く時を楽しみにしていますよ。ホラーはだって怖いじゃない。
批判じゃなくて、トリックってこういうのだよねってことよ。結構ほいほいと殺すじゃない、トリックって。でも小説では死体が一つも転がらない。別に人が死ねば良いって訳じゃないけど、記号的な死体や因習に縛られた村か超能力者がセットでトリックの要素に思えていた俺には本書はちょっと違和感がねー

それとミステリにおける死の観念だが、ちょっとコメントに書くには長文だが、よく言われるものに戦後の日本ミステリの復興の鍵と言うものがあるだろう。つまり戦時中、人の命というものは極限まで軽んじられた。その後の日本で横溝作品がヒットしたのは、人の死に対して、どこまでも論理的に真摯にその謎を追求する推理という姿勢が、人の死の尊厳を復活させている点にあるという……これは誰が言ってたのか覚えてないけど。
俺もこんな感じのスタンスには半分くらいは賛成なんだよね。俺の好きなアリスさんの作品で『朱色の研究』ってのがあって、その中で火村先生の大学の学生がアリスさんに質問するんだよ。どうして殺人を題材に書くんですかって。
作中でアリスさんはこんな感じの答えを出してる。端折ると、死人というのはいくら問いかけても何も答えてくれない。そこに殺人を扱うミステリのポイントがあって、要するに答えが返ってこないと分かっていて問いかけると言う行為……つまり推理だけど、これは非常に人間的な行為であり、そしてそれは神に祈ることにも似ているというような感じだな。
まぁここのやりとりは作品のテーマにも繋がってくるから、一概にこれがアリスさんのミステリにおけるスタンス全てという訳でもないだろうが、要するに戦後のミステリは一応、人の死に重きを置いているというスタンスを取っている作家が少なからずいる訳だ。でも結局論理パズルのピースの一つじゃんって反論もあると思うけど、俺もこうした戦後のスタンスには同調してる。

表紙書いた人は有名なんだな。俺は知らんかったよ……
書評の点数低いのは俺の悪いところだ。どうしても批判の方が口をついてでやすいのかしらん。次は珍しく褒めてみるかな。
【2010/12/16 01:36】 NAME[文庫] WEBLINK[] EDIT[]
今回も
辛口ですね。表紙は良かったのに残念です。米澤さんの、ふたりの距離の概算の書評が見たいです。
【2011/01/04 23:21】 NAME[Q] WEBLINK[] EDIT[]
無題
Qさん、コメントありがとうございます。
ある意味では表紙の雰囲気通りの作品内容で、トリックとしては穏やか過ぎるのが不満の一因ですね。
概算、そのうちに書きたいと思います。青春ミステリとしては高得点ですが、純粋なミステリとしては少し評価を落とすようで、このミステリーがすごい!でもランクが低くて残念でした。。。
【2011/01/05 02:28】 NAME[文庫] WEBLINK[] EDIT[]
おひさしぶりです
おひさしぶりです。といっても分からないかもですが。
久々に拝見すると、はやみね氏という知ってる作家のこと書いてらしたのでちょっと嬉しくなりコメ残します。
文庫さん、これからもがんばってください。では。
【2011/01/18 13:41】 NAME[鮭石狩] WEBLINK[] EDIT[]
すみません↓
…なんか変に意味深なコメになったような……
失礼しました↓
【2011/01/18 14:57】 NAME[鮭石狩] WEBLINK[] EDIT[]


コメントフォーム
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字


トラックバック
この記事にトラックバックする:


忍者ブログ [PR]
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
フリーエリア
最新コメント
[06/11 文庫]
[06/01 Q]
[01/18 鮭石狩]
[01/18 鮭石狩]
[01/05 文庫]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
福田 文庫(フクダ ブンコ)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1984/06/25
職業:
契約社員
趣味:
コーヒー生豆を炒る
自己紹介:
 24歳、独身。人形のゴジラと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
ブログ内検索
カウンター