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× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 題名/『御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部亜是流城館の殺人』 著者名/舞阪 洸 出版社/富士見ミステリー文庫 個人的評価/-100点(暫定過去最低得点) 内容/ 「なぁんか足りないよねぇ。高原の美味い空気、食事、ビールに殺人事件まであるってのに」村櫛天由美はつぶやいた。「温泉よ、温泉がたりないのよ!温泉で血の巡りをよくすれば、迷推理が浮かぶはずよ!」すかさず、有栖が叫んだ。伊場薫子は、御手洗高校に入学してきた一年生。ミステリー作家になる夢の実現のため、入部した部活「実践ミステリー倶楽部」は、アヤシイ部員ばかり。「殺人を呼ぶ」女装の麗人、夏比古。各地に別荘を持つお嬢様の有栖。顧問で謎の多い大学院生の天由美。奇妙な面々が、ふたつの密室殺人に挑む!ドタバタ本格ミステリー。
10年前の作品だとしても許し難い暴挙。本書のような作品を出版する限り、ライトノベルにおけるミステリの地位向上は未来永劫無いと断言出来よう悪書。要約/ その絵に描いたような駄目さ加減は、ライトノベルミステリの悪例を広く人々に示すために出版されたのではないかと邪推したくなるほど。 言いたいことは色々ある作品であるが、端的に述べればラノベミステリというジャンルを暗に貶めるような、アンチライトノベル派が思いつきそうなラノベミステリを具現化したかのような駄作である。
別にラノベミステリでなくても、ミステリの中には駄作というものは数多く存在する。最近読んだ中では『念写探偵 加賀美鏡介』(楠木誠一郎)とかがある。何故か続編が出たが、もし自分であればあんな駄作で世に名前が広まるくらいなら自殺することも怖くはないかもしれない。
というのは一例に過ぎず、名の通った作家先生でさえたまに駄作を発表したりもするので、この作品を書いた作者が駄作ミステリを発表することは別に珍しいことではない。ただ、未だにその土壌が十分に開発されていないラノベミステリという分野に置いて、こうした駄作を野放しにしておくことは、その分野の発展を十年は遅らせる原因に過ぎないのだということを言いたい。幸いにもこの駄作は平成十二年に初版発行となっており、そして当然と言えば当然ながらそれ以降は刷られていないので、ラノベミステリに与える悪影響は少ない。
だが、折角の十周年を記念して、ここに本作の書評を行い、今後のラノベミステリに対する大いなる警鐘としたい。決して自分がラノベミステリの新人賞で落選した腹いせではないことを先に断っておく。
言いたいことはいくらでもあるが大別するに、登場人物とトリック、そしてストーリーの三つになる。はっきり言って、これは作品の全てを否定しているに等しい行為ではあるのだが、それは仕方ない。だって見るべき所がないのだから。
まずは登場人物である。ラノベなので過剰表現における漫画的キャラクターの描写や設定は当然であるのだが、それにしても魅力が全くない。全ての登場人物がステレオタイプのキャラクター設定に終始しており、それ以下でもそれ以上でもないのだ。なのに四人も主要人物がいる。そして、三人は存在意義がない。一応、全員の紹介をしておこう。四人はみな御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部に所属している。
伊場薫子……一応、主人公。ミステリ作家になる夢があるらしいが、別にこれといって作中において知識を披露する訳でもなければ、助手として活躍する訳でもない。おまけに本作は三人称で描かれているので、存在意義が希薄。
榛原夏比古……女装している男。ただそれだけ。薫子以上に要らない存在。
西来院有栖……部長。西来院家は色んなところにコネクションのある大金持ちというよくある展開。警察の上層部に脅しをかけて推理するための情報を得るという流れを作るためのキャラクター。
村櫛天由美……部の特別顧問で大学院生。探偵役を務める。ビールを水のように飲む。それだけ。覆面作家であるが、その正体は明かされずに終わる。
そもそも、本当の事件を解決することを目的に西来院が金を使って作ったこの倶楽部であるが、所属している人間がまるで事件に対して関心がないのだ。一応そういう作品なので多少は調べるのだが、基本的には事件のあらましをなぞる会話などをするだけで終わる。あとは村櫛が推理して終りという展開だ。高校にあるミステリ関係の部員が本当に事件に巻き込まれちゃってさあ大変という、手垢でベタベタナ設定を用意したけど、別にミステリなんて好きでもないから、問題を提示するだけのストーリーを書いてあとは解決編を書いて終わりというやっつけ仕事をしたとしか思えない。
またラノベということで女性キャラ四人(夏比古は女装だが)を用意したのかもしれないが、前述している通り存在意義がないのだ。おまけにステレオタイプの設定のみなので魅力もない。これは作者も自覚があったと見えて、一応それぞれに役割分担をしている。薫子は新入部員なので一応は主人公的なポジションを、夏比古は「不吉を呼ぶ男」ということで行く先々に事件を呼び込むというポジション。そして西来院は金持ちキャラで警察の上層部にもコネクションがあり、捜査に介入するための役割を果たし、村櫛は探偵役という風になっているが、村櫛以外はいなくても成り立つ。三人称で適当なストーリー展開を見せる本作には主人公など要らないし、別に行く先々で事件が起こることに理由など、今さら読者は理由など求めない。そして捜査に介入する理由もまた今さら誰も文句など言わない。民間人が嬉々として殺人事件の推理をする時点でフィクションなのだから、そんなところを義理堅く理由付けする必要はないのだ。第一、村櫛は犯人を警察に指摘する行為を好まないので、作品内における二件の殺人事件はどちらも犯人逮捕には至らない。だったら最初から警察に対するコネクションなど必要ないのだ。勝手に推理すれば良いのだから。大体、この役割自体が一人に全部付加しても問題がないレベルなのだ。探偵だけが嫌なら、村櫛とあと一人誰か連れて行けば済む話である。
次にトリックである。本作では二つの事件を扱うが、どちらもミステリにおける最も好ましくない内容になっている。それは何か……使い古されたトリックに創意工夫をしないでそのまま使う。しかも伏線がまともに張れないという最低の内容を誇る。
一件目の密室殺人では、犯人は被害者を凍死させようと、部屋の窓を開けた部屋で睡眠薬を盛った被害者を裸で寝かせて放置。あとで戻ってきて服を着せて窓を閉めて自然な凍死を装おうとしたが、被害者が途中で一度目を覚まして窓を閉め、暖房を点けたところで力尽きたので密室になったという話だ。提示されるヒントは、犯人が後で着せようと思っていたのでキレイに畳んであった服。ただそれだけだ。
この事件を村櫛は上記したヒントのみで解き明かすが、実際には犯人は逮捕されない。作中では、その理由として、村櫛が面倒なので警察に言わないことと、証拠が足りないことが挙げられている。そうなのだ。これだけでは証拠は足りない。そして、これ以上証拠を提示すれば、それはもうただの殺人事件になってしまうので、暗に作者が提示しないだけなのだ。作者のアンフェアさでどうにかミステリっぽい体裁を保っているだけに過ぎないというのは最低の部類である。それでも、力尽きそうな人間がキレイに服を畳んでいる以上、警察も他殺を疑ってしかるべきであるが、そうならないのは警察が必要以上に無能に描かれているからだ。事件を解き明かす伏線と言うものは大体の場合、探偵が気付く。それはミステリなのだから巧妙に仕組まれているからだ。だが、この作品は巧妙に伏線を張れないので、警察が馬鹿だということにして済ましている。
大体、日常派のミステリでない限り、こういう感じというアバウトな推理は許されない。それは何故か、日常派ではない殺人事件などには警察が介入するからだ。本格ミステリとはトリックを用いて殺人が行われ、それを探偵が作品内で提示された伏線を回収し解き明かす。どうして伏線を回収しなければいけないのか、それは事件が警察の捜査のみでは分からないという大前提の下で成り立っているからだ。クローズドサークルものなどでは警察の捜査が介入することを避けるが、それだって連続殺人を狭い舞台で行うのが難しいとか、指紋などの科学捜査を避けるためだけだ。このように、警察では解き明かせなかった事件を解決するというのは、当然の理由なのである。トリックもなく、警察が頑張れば解決出来る事件は普通の事件なのである。それを警察が馬鹿だからということで普通の証拠を伏線扱いすることで体裁を保っている本作は何度も言葉を重ねるが、駄作なのだ。
そして二件目にして表題作である「亜是流城館の殺人」は先の事件以上に酷いのだ。警察が馬鹿だからという理由のみで、普通の証拠を伏線に仕立てるというやり口と、提示する証拠を減らしてどうにかミステリの体裁を保つという二点は一件目と変わらないが、こちらでは更に、タイトル詐欺を行っているのだ。
今回の事件は亜是流城館と呼ばれている建物で起こる。そしてその見取り図も載せられているのだが、この見取り図はまるで意味がない。別に建物がどういう構造かは問題にはならないからだ。更には容疑者のアリバイを考える上でもこの見取り図は意味がないのだ。ほとんどの人間が作中では一箇所に固まっているからだ。そして殺人事件もトリックも、全く亜是流城館で起こる意味がない。普通の一軒家でも十分に行える。いや、むしろ普通の一軒家以上を要求することは本来出来ないトリックである。それにも関わらず、作者はどうして城などを出したのか。単なるハッタリである。それ以上の理由はどんなに読み返しても見つからない。これは詐欺に近い。
そしてそのトリックだが、要するに暖房を使って犯行時刻を誤魔化すもの、これだけである。今さら二時間ドラマでももう少し気の利いたものを用意するだろうが、本作ではこれしか用意しないのだ。一応、密室を作り外からリモコンをどうやって操作したのかという謎があるが、これも酷いレベルで、鏡を使って赤外線を反射させたと言う。しかも、その伏線となる描写が、駄作の例として提示したいくらいにレベルが低いのだ。あまりに酷いので、ここに抜粋する。
鏡が三つ。床に直に置かれているのではなく、何かに乗っているようで、斜めに傾いている。割れているものはない。天由美が覗き込むと、鏡の角が小さな小箱に乗っていた。
物盗りの外部犯に見せかけているために、部屋は荒らされている中でこの描写である。これはもはや伏線ではないと思うのだが、一つだけ伏線めいたことがあるとすれば、読者はまさかここまで露骨な鏡を使ったトリックなど使わないと思うのが普通だと思うので、作者のレベルの低さは伏線として一役買っているという考え方は出来る。
ではリモコンはどうやって室内に戻したのか。ここまで考えることはこの作者には重荷であったのか、実に簡単な解決法を用意している。それは、現場となった部屋の扉は床から1センチ以上隙間があるのだ。もはや頭がおかしいとしか思えない。
そして最後にストーリーである。本作は一応、御手洗学園高等部の実践ミステリ倶楽部が事件に巻き込まれるという筋書きだ。要するに高校生が主人公だ。しかし、学校生活の描写はまるでない。事件も全て学校外で起こっているし、出掛けた理由も合宿なのだが、西来院の権力のおかげで実践ミステリ倶楽部の活動ですと届出を出せば、学校は認めざるを得ないのだ。つまり高校とは全く関係のない外出先で事件に巻き込まれる。この筋書きに高校生である理由は何一つないのだ。安易に高校生と部活を使ったものの、それを活用することが出来なかったのは、想像に難くないがそれにしてもこれは酷過ぎる。亜是流城館でないといけない理由がない前述した事件など、別に学校で起こしても良さそうなものだが……
そしてまた、事件とは関係ないストーリー部分でも魅力は何もない。わざわざ高校生を起用しているにも関わらず、高校という部分を西来院の金持ちを強調するために全て無効しているので(キャンパス内に勝手に洋館を建てて部室にする。前述した好きな時に学校を無視して合宿に出れる等)何一つ利用していないのだ。学校生活の描写もなければ、日常の描写も何もない。おまけに探偵役は特別顧問の大学院生で高校生ですらない。
それと、女装趣味のある夏比古や金持ちキャラの西来院のせいで倶楽部に入部希望を出すものがみんな逃げてしまうという話が序盤にある。いわくある部活という設定自体、手垢に塗れた陳腐な設定だが、読む限り、みんなが逃げ出す理由は見つからない。確かに夏比古は女装しているが、作中公言しているように変態であったりホモではないのだ。女装しているだけで普通の学生である。西来院も金持ちであるが、一緒にいれば恩恵を受けられるだけで、それ以外に何か問題があることもない。お嬢様キャラとして執事とメイドを常に従えてはいるが、それぐらいであってこれと言って異常に性格が悪い訳でもない。全てが中途半端なのだ。
このように、余りにレベルの低い作品を書き上げた舞阪洸という作者だが、その経歴を見る限り、ミステリにはこれと言って縁のない人間に思える。強いて言えば、本作の続編を出しているくらいだ。「彫刻の家の殺人」なるサブタイトルだが、きっとどうせ彫刻は関係ないのだろう。
ゲームシナリオなどを担当し、多少のヒットにも恵まれている作者なだけに、ミステリを書いてみたいと言えばこうした本を出すことも出来る立場にいるのだろう。これは邪推ではない。仮にこんな低レベルな作品を出版元が主催するヤングミステリー大賞に応募したところで一次すら通過出来ないだろう。まぁ富士見ヤングミステリー大賞は八年で終了し、富士見ミステリー文庫も2009年で刊行を終了させている。つまり、刊行元からして駄目な訳であるが、こうしたミステリに対する冒涜とも思える作品を恥ずかしくもなく出してしまうような輩が業界にのさばっている限り、ラノベミステリという分野は発展しないだろうし、強いてはミステリそのものにも悪影響が出るのだ。中高生をターゲットにしたライトノベルでこうしたレベルの低いミステリを出すことは、将来のミステリ読者やミステリ作家を著しく損ねる危険性があるからだ。
舞阪洸という人間に対しては、一人のミステリファンとして二度とこのジャンルに近づいて欲しくないと切に願うばかりである。 PR ![]()
無題
これだけ酷い評価だと逆に読みたくなってしまいます。逆にミラクルな出会いでしたね!
無題
マイナス百点とはすごいな
無題
Qさんへ
いつ買ったかは覚えてないんですが、ある意味買って良かった一冊です。でも調べたら続編書いてるんですよ…… 石狩鮭さんへ 恐らくミステリに関して興味のない君が読んでも単に面白くないラノベだろうが、ミステリ好きにしてみればわざと悪い例を作ったとしか思えない内容だ。-100点は狙わなきゃ取れないぞ、本来。
無題
相変わらず手厳しいねぇ。
アンチミステリとかアンチホラーとか『アンチ』の名を借りて、さも『実験的作品でござい』と胸を張っている作品は多いけど、ここまで露呈しているのも珍しい。 これは10年前のものだけど、いまは実力不足で小細工だけを弄してちょっと斜に構えている作品がモット多いんじゃないだろうか。 ![]() |
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1984/06/25
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自己紹介:
24歳、独身。人形のゴジラと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
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