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このブログは福田文庫の読書と創作と喫茶と煙草……その他諸々に満ちた仮初の輝かしい毎日を書きなぐったブログであります。一つ、お手柔らかにお願い致します……
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usaginoran.jpg題名/『ウサギの乱』
著者名/霞 流一
出版社/講談社
個人的評価/45点
内容/
天宇受売命を祀る神社で、兎の骨が大量に出土した。二年後、宮司の変死を皮切りに濫発する怪死事件!出入り不可能な二重密室での串刺し、骨を粉々に砕かれ、埋葬されていた死体。犯人の意図のまったく読めない不可思議犯罪の行方は!?警視庁警部倉吉高史と名探偵駄柄善悟のコンビが事件に挑む本格推理。
要約/
 本書の見所は「魔送球の密室」と称されている密室トリックのみ。
 バカミス作家として名高い霞氏であるが、本書は霞氏のシリーズの中でも人気のない(と思う)駄柄シリーズ二作目ということもあってか、全体的には面白くない。点数は全て密室トリックに捧げる。

 ◎

 年末年始は、私のような人間でもそれなりに忙しく、通勤時の読書こそすれども、身内以外が訪れることのないこのブログを更新することがなかなか出来ずに、気が付けばもうすぐ二月である。
 いくら訪問者が身内ばかりで、その身内さえ何故だかブログ内でコメントを寄越さずに電話や別件でのメールのオマケとして感想を送ってくるので、表面的には誰も来てないようなこのブログでも、そろそろ更新せにゃならんと思い立ち、最近読んだ一冊をレビューすることに。
 今回の作品に関する感想は続きへに書くとして、自分の書いた稚拙で妬みに近いような書評を振り返って読んでいてあることに気付いた。西澤氏の『依存』の点数が高過ぎるのではないかと。
 その作品を読んだ当時は80点だと思って点けたのだから、今更わざわざ編集することはないが、先日友人が遊びに来た折にこの作品が話題に上り、読み返したのだが、やっぱりよくよく読んでみるとあんまり面白くない気がしてきた。
 自分は書評を書くときには、一応、世間様と余りにもズレのあるものを書いたら恥ずかしいと思いアマゾンのレビューなんかを読むのだが、この『依存』に関しては結構高い評価を獲得していたように思えた。私自身、西澤先生の作品をそんなに読んでいる方ではないし、きっとシリーズをたくさん読んでいけば、この作品の良さが分かってくると思い、80点としたのだが、その後にこのタックシリーズを読み続けたのだが、やっぱり評価はあんまり変わらなかった。シリーズの大半が大学を舞台としている(一部、社会人編もある)ので、そろそろ自分の年齢的にも読むのは厳しいのかなと思うと、何だか寂しい気持ちになる。
 そう考えると、今回の『ウサギの乱』の書評はバッチリである。大学生なんて出てこないし、霞氏の作品は一般的にはまだまだ認知度の低いバカミスであるせいもあってか、アマゾンのレビュー自体が少ないので、世間様の意見に左右されずに書けたと思う。



 霞流一氏は日本でも屈指のバカミス作家である。
 しかし、そもそもバカミスとは何ぞやということに関してある程度の明確な注釈を入れたいと考えるので、ここで少し補足させてもらう。
 このバカミスと言う言葉は記憶があっていれば、95年版の「このミス」で初めて正式に取り上げられた言葉ではないかと思う。日本バカミス振興会会長であるミステリ研究家の小山正氏が、05年版の「このミス」の中でバカミス命名の10周年記念の解説を載せているので、こちらを参考にバカミスというものを考えれば良い訳だが、10の項目に分けてそれらしい記述はあるものの、結論としては、バカミスはジャンルではなく概念であり、定義などはなく、あくまでも「俺がバカミスだと思った作品がバカミスなのだ」という小山氏の大胆な見解には心打たれるものがあった。つまりは小山氏の提示した10の項目を頭に入れた上で個々人が「これはバカミスだよなぁ」と思った本はその時点でバカミスであると考えて良いと私は思う。
 そうしたことを踏まえた上で私の思うバカミスとは、「傾く」ことではないかと思う。こんな言葉を安易に使うと大学時代の友人にネチネチと馬鹿にされそうなのだが、大雑把に国語辞典から引き出す「傾く」の意味とバカミスは非常に似通っている。つまりは、自由奔放に振舞うが故に周囲からは常識外れであったり異様な風体だと思われるものということだ。だが、傾く人間には世間の常識には外れても自分のルールや理には適っているのだと思う。これをそっくりミステリに言い換えれば、奇想天外なトリックや奇抜な設定を好き過ぎる余り、一般的な読者からはリアリティがないとか頭がおかしいと思われるものの、本人たちはミステリの大前提は逸脱していない……もしくはしないようには頑張っている。これが私の思うバカミスである。最後に、しないようには頑張っていると付け足したのは、たまに逸脱しちゃう作品があるからだ。ただそこら辺は作品から作者のミステリに対する情熱さえ感じられればチャラだと思う。
 
 といった具合で、長々と自分の思うバカミスというものを説明した上で本題である『ウサギの乱』の書評に入りたいと思う。
 本書では、才能溢れる新人女優の羽条ルナの周囲で起こる不可解な連続殺人事件を描いたものだが、タイトルからも分かるとおりにテーマはウサギであり、ウサギや月に関する知識を随所に散りばめながら、ウサギに纏わる殺人が次々に起こっていくのである。一度でも霞氏の作品を読んだ方ならご存知のことであるが、作者は落語と動物を偏愛し、「獣道ミステリ」と呼ばれる動物をテーマに据えた作品を書き続けているのだ。もうこの時点でバカミス作家らしくてとても素晴らしいのである。
 とは言え、霞氏の書く一連の作品が「獣道ミステリ」と称されていても、作品の主人公はそれぞれ違ってくる。変な事件を専門に受け持つ探偵の紅門福助とか奇蹟鑑定人の魚間岳士とか、何人かいるが、大体は変人である。そして本書での名探偵は、二十年以上のキャリアを持つ衆議院議員で国家公安委員会のメンバーでもあった名俳優の駄柄善悟である。とりあえず肩書きが滅茶苦茶で、色んな方面に顔が利くので勝手に捜査に介入しても警察のお咎めがないどころかむしろ表面上は歓迎されるという設定の人物だ。それに小間使いのように駄柄に使われる倉吉警部と駄柄の秘書で美人の村雨真香の三人で事件を追い駆けるのだが、正直なところ、私はこの名探偵があまり好きではなかった。権力を濫用しながら捜査する作中のスタイルが気に入らないとかではなく、どうもいまいちキャラが立っていないように思えてならないのだ。はっきり言って、設定の意図が理解できないのだ。基本的にミステリの主人公になれば、例え民間人だろうが平気で事件を追い駆けるし犯人を捕まえたりもする。そのことに対する一応の辻褄を合わせるための設定なのかもしれないが、そのためだけに随分と多くの肩書きを用意してしまった挙句、あまりそれらが消化されていないのは残念だった。単純に作中で態度がでかいというぐらいのことである。これだったら、単に刑事ものの作品に多く出演してきた名俳優で、役作りのために今でも勝手に捜査に乗り出してくるとかでも良かったのではないかと思えてならないのだ。とにかく、それくらいに肩書きの無駄が気になった。確かに本書は屈指のバカミス作家である霞氏の作品であるし、バカミスの中には主人公が変人であるというケースも少なくはない。だが、こうした肩書きのみで人物の変人さをステレオタイプに彩るのはいかがなものか。そういった観点からも個人的には、夏には冷蔵庫でパンツを冷やし、冬には電子レンジでパンツを温めて女性に逃げられた紅門福助の方が好みであったりする。
 
 そんな感じで人物評は終り、いよいよトリックの論評に移りたいと思う。
しかし書いていて思うのだが、霞氏の作品はとてもレビューしにくい。それはバカミスとして、良い意味でストーリーなどどうでも良いという作品の構成に要因がある。作者自身、「2003 本格ミステリ・ベスト10」(原書房)の中で自作に対するコンセプトを下記のように語っている。
 
「アメリカの軽ハードボイルドというのは、スピーディでアクションあり笑いありお色気ありで、非常に面白いんだけど、でも読み終わった時に充足感がない。一方、本格ミステリを読んでいると、読み終わって充足感があるんだけど、僕の目線からいうと、途中はもっと下世話であってほしい。それで、それを両方融合したものができないかな、と」
 
 この言葉を個人的に解釈するに、本格ミステリの肝とも言えるトリックに大胆不敵で奇抜なものを用意してそこでミステリとしての充足感を読者に与え、それ以外のストーリー部分には下世話でノリの軽い話を用意する。こういうことなのだろうと考えている。だとすれば、下世話で面白ければ何でもありといった感じのストーリー部分に読者がいちいちあーだこーだと文句を垂れても始まらないのだ。ここは一つ、思い切って充足感を与えてくれた本格ミステリの部分にのみ、文句を垂れてみたいと思う。
 
という訳で、本書において駄柄の挑む殺人は全部で四回起こるのだが、その内の一つは本書の見所とも言える密室トリックのための殺人でありオマケみたいなものであり、そしてもう一つは犯人を絞り込むために用意された殺人に過ぎないので、本質的には二つの殺人が主となってくる。
 その一つ目が高さ4メートルの天井に頭を打ち付けて死んだとした思えない宮司の殺人事件だ。天井には確かに宮司の血が付いており、死因もまた頭を強く打ったことが原因となっている。その惨状をまるで、発情期に狂ったように飛び跳ねる三月ウサギに例えることで、ウサギになぞらえた一連の殺人事件がスタートするのだが、このトリックに関しては個人的にはあまり評価は高くない。この殺人を解き明かす鍵は、宮司の遺体に残っていた引っ掻き傷のような跡と殺された現場の特殊な建物が大きく起因してくる。情報提示に関してはフェアであるし、トリックとしては極めて無難であるが、バカミスにしてみれば無難と言うのは大敵である。手堅く殺すくらいならいっそ殺さないほうが良いくらいだ。
 そういう訳で、この第一の殺人に関しては余り評価は出来ないものの、第二の密室殺人は、作者の言葉を借りれば十分に充足感の得られるものに仕上がっているのではないだろうか。この第二の殺人は大雑把に説明すると内側からチェーンの掛かった部屋で人が串刺しになって殺されている。串刺しにしている凶器は優勝旗のポールの部分であり、チェーンも長いためにある程度の隙間はあるが、その隙間から被害者を串刺しにすることは角度から言って不可能。ならば犯人はどうやって被害者を串刺しにして現場から脱出したのかといったものだ。私が不勉強であることもあるが、この第二の殺人における密室トリックは他に見たことがない様に思える。それくらい斬新な方法であった。多少苦しい場面はあるものの、この方法はちょっと思いつかない。ポイントとしては、第一の不可解殺人と同様に、現場には色々なものが転がっており、それらを有効に活用することが出来たという点と、もう一つは現場のドアは14~5センチくらいならば開くということである。作中の人物に言葉を借りれば、子供でも厳しいくらいの隙間である。そんな狭い出口から犯人はどうやって脱出したのか。このトリックは脱出を不可能にしている原因を取り除くことでこれをクリアしている。
 ただ、この事件に敢えて一つだけ注文をつけるならば、事件現場には杵があればもっと良かったように思える。撮影の道具やイベントで使ったマイクスタンドとか、とにかく倉庫として使われていた一室が現場であったので、何かのイベントに使った杵とかがあっても不自然ではない。だからこそ、ウサギ尽くしであった一連の事件においてもメインともいえるこの事件で、杵が使われていればと考えるのは暢気な読者の勝手な考えかもしれないが。
 このように、メインの密室殺人に関しては大いに満足のいった本書であるが、一つだけ気に入らない事件も存在する。それが先に、犯人を絞り込むために用意されたと説明した殺人である。この事件では、犯人が被害者の残したダイイングメッセージを暗い中で探すために、自転車についているライトを利用する。そして、わざわざ自転車のライトを使用しなければいけないという点から、犯人は灯りになるものを所持していない人間であるという流れで容疑者を絞り込むのであるが……みんな携帯電話持ってるだろうがと思ったのは私だけだろうか。わざわざ犯行現場から駐輪場に行って自転車を一台持ってきて、後輪のダイナモを動かして灯りの代わりにして見えにくいダイイングメッセージを探すなどという時間と手間の掛かる手段を、殺人を犯した人間が現場で行うという点に関しては不満が残った。仮に携帯電話を持っていない人間であればこの不満も解消されるが、容疑者は確かに携帯電話を所持している描写があるし、殺人の時にだけたまたま電話を所持し忘れたというのも不自然ではないだろうか。
 
 このように若干の不満点は残るものの、バカミスとしてはそれなりに満足のいく作品となっている。ただ、読者(少なくとも私)の満足において大部分を占めているのが、前述した密室トリックだけであるというのは心許ない気がしないでもない。371ページと、それなりのボリュームであるのだが、バカミスとしての見所は密室トリックだけであり、また事件を追い駆ける探偵たちも他のシリーズで主役を張る紅門や魚間と比べるとどうしても魅力に乏しい気がする。作者の著作の内でも、今回の駄柄が主役の作品は本書を含めて二作品しかないのも頷ける。作者はあとがきで、駄柄について「パラノイア性が暴走する唯我独尊の捜査ぶり」と評しているが、はっきり言って、政治家でもなければ大物俳優でも何でもない他のシリーズの主役たちのほうがよっぽど良い意味で唯我独尊ぶりを発揮しているように思える。
 
 もしも霞作品を初めて読むと言う方が本書を手に取ったならば、一度本棚に戻したほうが良いかも知れない。個人的には霞氏の最高傑作であると思う『首断ち六地蔵』を読んで、霞氏のバカミス作家としての力量に大いに感服してからその他の作品を読むことをお勧めしたい。それくらい、本書は見所に辿り着くのには辛抱のいる作品である。

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1984/06/25
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 24歳、独身。人形のゴジラと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
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