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このブログは福田文庫の読書と創作と喫茶と煙草……その他諸々に満ちた仮初の輝かしい毎日を書きなぐったブログであります。一つ、お手柔らかにお願い致します……
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           chn11_rpt1740_02.jpg気付けばもう師走。早いもんです。
 喫茶店の雇われ店長としては、お歳暮売らなきゃお歳暮売らなきゃと泡喰ってる間に日々は過ぎ去ったような気がします。昨今、年賀状も出さない連中が増えてるというのにお歳暮なんか誰が買うのかと言いたい。現に売ってる僕もお歳暮なんか出す人もいないし、金もない。現代日本の超個人主義的閉塞社会の象徴だよ、全く。旨いもん見つけたら自分にご褒美しちゃうムードの現代人にはなまじ心のこもった贈り物なんてのは、どだい無理な話な訳で。
 推理小説愛好会の端くれにとって、十二月は「このミス」が発売される月という以外に、どんな価値があろうものか? クリスマス? 馬鹿野郎、このすめらみくにに住む者にとって意味があるのは前日だろ? と。二十三日の天皇誕生日にこそケーキで祝えば良いんだよ。お前らの心に皇室典範はないのか? そんな怒りに身を震わせながら、街行くカップルを睨む季節がやってきたな、と。まぁ、腹が立つ理由は主に歩道を横二列で歩くという一点のみで、カップル自体は良いんです。もし他の通行人を思いやり、縦一列で闊歩するカップルがいたら、地元のラブホのメンバーズカードあげても良いくらいです。ここ、サウナもあるぜ? って。
 
 話はとても緩やかに蛇行していきましたが、「このミス」の季節が近まり、そして有栖川先生が新刊を二冊も出した(書き下ろしじゃないけれど)今年は、アリスファンを自称する自分にとっては、その順位が気になるところであります。
 しかしだ。最近の有栖川作品には、どうも昔の情熱を感じないのは自分だけなんだろうか? おかしいな、本の帯にはパッションって書いてるのに。そうだね、プロテインだね。
 と言う訳で、今日は『火村英生に捧げる犯罪』(文藝春秋)の書評を執り行いたいと存じます。どうぞ最後までお付き合い下さい。


 この作品は短編集の体裁をとっており、あとがきで有栖川先生が言ってるようにバラエティ豊かだと言えなくもない。ただ、それはとても良心的な見方であって、正直申せば携帯サイトで出した作品、収録する意味あるんですか? といいたくもなる。
 とにかく短編集なので、個々の収録作品に、チマチマと因縁をつけて行きたいと思います。あと軽くネタバレしますので未読の方は回避願います。
 
 1.長い影
 ドライアイスをトリックに用いた作品。
 今日、ドライアイスをトリックに利用した時、今更それかよ……という反応か、意欲作であると言われるかは、もう本当にトリックの出来のみで左右されるといっても過言ではないが、これは前者に近いかもしれない。被害者の発見される格好を犯人はどう考えていたんだろうか……
 まず、気持ちは分かるが登場人物がみんなあからさまに「これは自殺じゃないよね」的な雰囲気を出してしまっている。別にミスリードに引っかかって、道化を演じる人物を見たいという訳ではないが、本シリーズの火村先生は天才型の探偵ではないので、もう少し犯人に翻弄されてほしかった。
 あとは被害者と犯人、そして目撃者をつなぐ意外な接点がポイントなんだろうけど、こっちはもうおまけみたいなもので読者が頭を捻る暇はなかった。そういったのもアリねという感じで、総じて地味な印象と地味なストーリーである感は否めない。
 
2.鸚鵡返し
 携帯サイト用の作品その一である。火村先生が語り手になっている体裁で、ショートショートとして、ボリューム的にも妥当な内容かもしれないが、有栖川先生の「ハードロック・ラバーズ・オンリー」のような傑作ショートショートが忘れられない自分としては、別に無理してミステリ色を入れなくても良いんじゃないかと思う。不勉強で携帯サイトを見たことはないが、それこそ日常ミステリ的なキャラクター小説みたいな感じでも良いんじゃなかろうかと思ってしまう。なんかトリックが「六とん」を思わせてヤなんですよ。
 
3.あるいは四風荘殺人事件
 すでに以前刊行された日本推理作家協会のアンソロジーで読んでいた作品。
 亡くなった大物作家が残した遺稿のトリックを考えてほしいと遺族に頼まれたが……という作品。作中作で大物作家が初めて書いた本格ミステリが出てきて、その作品のトリックを火村先生があれこれと考えるのだが、有栖川先生があとがきで書いている意図とは違い、自分なんかはミステリって色んな解答があるんだぜという可能性を示唆する、そして遺作なんかの未完のミステリっていうのはこんな感じで扱われてるみたいな裏話的な面白さがある作品かなと思いました。
 実際、連載形式が圧倒的に多かった日本の推理小説は未完のものが海外に比べて圧倒的に多いので、こんなこともあり得るのかなとまだ見ぬ業界の裏側にフィクションの夢を感じましたね。戦前の作家なんて、割と未完に終わる人も多かったように記憶しています。小栗虫太郎の「悪霊」とか、木々高太郎の……タイトル出てこないけど、結構あったように思うけど、今はこういうことってあるんでしょうか?
 トリック自体は、大掛かりだけど地味なものです。有栖川さんは、こうした体裁でトリックを使ったのは別に照れ隠しの類ではないと書かれていますが、それ以前にこれで普通の火村シリーズは書けないよなぁとか素人は思いました。
 
4.殺意と善意の顛末
 携帯サイト作品その二である。
 実体験に基づいて……というトリックが作中で出てくるが、トリックとして使用に耐え得るかどうかという点は微妙なものだろう。話自体はきれいにまとまっているし、トリック自体もそれそのものは面白いので、携帯サイト作品の中では一番面白いと思います。
このトリックじゃちょっと……と、なんて書いていて思い出したが、そう言えば歌野晶午
の『放浪探偵と七つの殺人』の中にも似たようなのあった気がします。この時も犯人は大きなミスを犯して呆気なくトリックを見破られてしまうんですけど、扉の入れ替えを使ったやつで巧妙なのってあるんですかね? やっぱり、同じものだからって扉みたいな大きなものを摩り替える時点で犯人は切羽詰ってるんでしょうか? そういった点では、有栖川先生のほうがずっとストーリーの流れが自然で素晴らしいです。
 
5.偽りのペア
 携帯サイト作品その三である。
 これはもう、駄目だと思う。写真を使ったトリックめいたものが作中で出てくる。写真を利用したトリックには以前にも、火村シリーズで確か二作品ほどあった。「三つの日付」と「哂う月」だったろうか? タイトルこそ定かではないが、どちらもそれなりだったように記憶している。個人的には後者の方が好きで、確か共犯者の一人称で作品が綴られていた。
 写真をどうにか加工して……なんてトリックは、現代では到底使えはしないだろう。フォトショップで加工して、写真に写ってる時計の針を加工したんだ! なんてオチを書こうものなら、例えサークルの会報かなんかに載せても後輩やら同期に何言われるか分からない。それがプロとなれば、なおさらだろう。
 だからこそ、写真のトリックは珍しい自然現象とかなんかに頼らざるをえないのが現状であり、そうなると自然現象なんだからアンフェアではないが、単に物知りかそうでないかみたいな話になってきてしまう。そういった点を考えると、この作品はアンフェアではない唯一の加工トリックとしての価値はある気がしてくる。だからといって、話が面白いかどうかは別だが。
 しかし携帯サイト用の作品は本当に、有栖川先生の苦心が垣間見えるような気がする。それだけお金を貰って小説を書く人は大変なんだろうなと思う。でも、ファンって勝手なもので作者の苦労なんて全く配慮ないからなぁ。
 
6.火村英生に捧げる犯罪
 表題作。あとがきを読むと、華やかなタイトルだからという理由だけで表題作に選ばれたように聞こえる。読んでみると、そんな気がしてくる。
正直なところ、かなり期待していた。そういった点では有栖川先生の表題作選びは、マーケティング的には大成功だと思う。ご本人がおっしゃっている通り、探偵の名前がタイトルに出たこと自体がお初で、期待には相乗効果といった感じだ。
 だが、この作品は本格ミステリはないと思う。どちらかといえば、パロディ色が強い。R教授を名乗るものから警察に送られた火村先生に対する挑戦状とも取れる書状、ある学校の校庭に奇妙な配列をもって並べられた机、そして、時を同じくしてアリスに盗作疑惑が浮上し……こんな感じで、ある意味では面白そうな飾りをこれでもかとゴテゴテにくっ付けたすえのどんでん返しオチといったところか。
最後まで読んで、作中のアリスに「何を期待していたんや? そんな小説みたいなことある訳ないやろ」と笑われたような気がする。ミステリの作中でミステリを否定する、そんな倒錯したブラックユーモアとしては面白い作品だが、これはタイトル詐欺ですよ……といいたくもある。
 
7.殺風景な部屋
 携帯サイト用作品の最後。
 これも駄目だと思った。ショートショートであろうと、本格ミステリのテイストをという有栖川先生の真摯な熱意は伝わるが、このオチをハードカバーで読んでしまうと、思わず苦笑いが漏れる。
携帯電話という小道具を使ってのダイイングメッセージだが、これはマジカル頭脳パワーとかで出てきそうなオチである。作品の分量を削るためだろうが、条件付けも露骨で、こればかりはファンでも少し辛いものがあった。火村先生が出題したIQサプリの問題だと思えば良いかもしれない。
 
8.雷雨の庭で
 へーって感じの作品である。
 火村先生はたまにごり押しをする。「ブラジル蝶の謎」で犯人が怒って火村先生を罵倒するシーンがあるが、ふてぶてしい野郎だと思う反面、先生はたまにそういうところがあると思ったりもした。証拠は後で警察が見つけてくれるみたいなことを言って推理を進めちゃうところがたまにあるのだ。そんな火村先生の悪い一面が出てしまった作品。今回は「たまたま聞こえなかったんだ」もしくは「その時はたまたま席を外していたんだ」というごり押しです。まぁ、当たってるから良いですけど。
 トラブルの耐えない二つの家で、片方の家主が自宅の庭にて死体で発見される。当然、隣の家の住人が疑われるが、アリバイがある。しかも被害者には誇大妄想癖があり、周囲での評判も悪い……ここでの誇大妄想というのが隣の住民が女性を監禁してるとか毒ガスを作ってるとかで、何言ってんだよ? 馬鹿か? みたいな反応を周りはしてて、個人的には実は犯人のある行動を間違って受け取っていた被害者からのヒントみたいなものだと思って読んでいたが、本当にただの誇大妄想に過ぎなかったので残念だった。トリック自体も確かに、被害者が本当の誇大妄想癖だからこそ成り立つものなのなんだが……
 
 総括
表題作の「火村英生に捧げる犯罪」の中でこんな台詞がある。
 
  「有名税かな」
  「よく言うぜ。有栖川先生に比べれば無名の一研究者だ」
 
 火村先生を名指しした犯行予告文とも取れる書状が警察に届いた時の会話であるが、私は本書の感想にこの言葉が適当であると思う。
 作中でも、「白い兎が逃げる」くらいから、火村先生のことを嗅ぎ回る新聞記者因幡丈一郎が登場し、謎のテロリスト集団である「シャングリラ十字軍」とかの存在もちらつき始めた。テロ連中とは直接の因縁は今のところないが、一度だけこの組織絡みの事件を手がけたことがある。このように、火村先生は作中でも徐々にだが、名前が売れ始めている。これが日本のエラリーと呼ばれる作者にとっての意図かどうかは未熟な読者である自分には分からないが、ただ本書のような短編集がこれからも発刊され続けるのであればそれが新たなる展開に向けた布石だとしても、残念でならない。
 あくまでも作品としての総括で言えば、地味であるとしかいえない。本来、バラエティが豊富な短編集とは『ロシア紅茶の謎』のようなものこそ適当であって、本書は聞こえは悪いが寄せ集め感が強い。作品が溜まってきて、短編集を出すのだから、短編集なんて基本的にはある意味では寄せ集めなのかもしれないが、だとすれば良くない作品ばかりが集まった気がする。
表題作に「火村英生に捧げる犯罪」をチョイスしたのは、已む無い判断といわざるを得ない。だだ、それは他の作品だと表題作と呼ぶにはあまりに魅力が乏しく、またこの表題作にしても、今回の中ではまだ面白いほうであるだけで、完全に納得のいくものではない。短編という文章量を活かした奇抜なトリックを有する作品が一つでもあれば良かったのだが、本書に収められた作品はどれをとっても奇抜とは程遠く、心に響くものが鈍い。
火村英生の有名税を律儀に支払ってくれる有栖川先生には、火村ファンとしてはうれしいが、今度は少し滞納してでも傑作を待ち望む。
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1984/06/25
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 24歳、独身。人形のゴジラと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
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