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manabana.jpg 「だんしがしんだいでしんだ」 回文もどきの第一声で始まった足跡なき密室殺人、続けて起きるアイドル高校生の失踪。学園探偵部の3人と顧問の生物教師がお気楽に乗り出す本格推理小説。(裏表紙より)

 まず最初に書かせて頂くが、回文もどきである意味は全くもって何一つない。多分、ただ作者が面白いと思って主人公に言わせただけだと思う。それくらい意味がない。
(個人的評価:60点)


 
 ★良くも悪くもぬるま湯みたいな作風
 
 この人の作品を全部読んでいる訳ではない。
 しかし何となく、この一冊で作者のなんたるかが少し分かった気がする。この作者の特徴である。それは端的に表せば、どうでも良い話で長編を書けるというものだ。
 これは聞いた限りではデメリットと取られかねないかもしれないが、必ずしもそうではない。この作者が描く登場人物と作品全体に漂う雰囲気は一種独特で、緊張感のなさや小芝居じみたものがある。こうした雰囲気で扱う事件は、猟奇的な殺人や巧妙な密室なんかよりもバカミス的な度合いのものの方が相性が良く、かといって短編でインパクトを残したり、その意義があるほど飛び抜けたトリックである訳でもないので、結果として前述したような評価になるのだ。
 またバカミスと言い切らず、バカミス的と表現したのにも意味はあり、また聞こえは悪いかもしれないが、トリックの度合いも中途半端である。その巧妙さだけで短編を成せたり、作風にそぐわないほど完成度の高いトリックは出てこないが、一笑に付したり、度肝を抜くほど奇抜なものでもない、バカミスと本格の中間に位置する程度のレベルを維持しつつコンスタントに作品としている。そう言った意味では、ぬるま湯みたいな作品が多い。この温度が心地よい人にとっては、ずっと漬かっていたくなるような作品を書いている。
 
 ★あまり意味のない舞台と印象の薄い探偵部
 
 そうした個人的な作者に対する考察の下、本作品を読んでみると、やはり期待を裏切らないぬるま湯作品であった。
 私立高校・鯉ヶ窪学園の探偵部である、多摩川、八ツ橋、赤坂の三人(本当はもう一人いるが、どうでもいい)が学園で起こった密室殺人と、それに続く第二、第三の事件に挑むという内容である。
 高校が舞台ということになれば、やはり学園モノとしての描写にも期待が高まるものであるが、残念ながらそういった点に関しては不満の残る結果となっている。事件自体が四日で解決してしまうし、事件が学園内で起こったために学校自体が休校状態であるのが作品の大半で、学園モノや青春ミステリ的な側面をもし仮に期待されているような方がいたとしたら、その点ではお勧めできない。
 また主要キャラクターも多く(上記三人のほかに顧問の石崎も中盤以降は出番が多いので)、それぞれのキャラクターが立っていないという点もまた残念なところだ。一応、探偵部の部長である多摩川と先輩部員の八ツ橋は本格ミステリが好きで、特に部長はミステリ好きというよりも探偵行為が好きと言ったほうが良いような大胆不敵な言動で序盤は振舞うものの、中盤以降は「何の因果か探偵部顧問」と言っている石崎に立場を奪われがちになる。主人公はと言えば、こういったミステリ系の部活新入生にありがちな無知なキャラ及び、語り手のポジションについているために、先輩二人に流されがち、しかも第三の事件に関しては何故か部長ではなく八ツ橋が急に真面目になって解いてしまったりもする。ちなみにメインである第一の事件も、主要キャラの一人が勝手に気付いたら解いていた。
 このように、何となくみんな本格ミステリに傾倒していて、そして個人プレーで事件を解決しちゃうので、チームとしての一体感に欠けている。そこがまた、東川作品の雰囲気をかもし出すポイントなのかもしれないが、人物描写までお気楽でメリハリがないので、印象に薄い。まだ鵜飼探偵と戸村流平コンビのほうがキャラが立っている気がする(しかし、鵜飼探偵も普段は不真面目だが、それなりに事件はちゃんと解いたりするので中途半端な感は否めないキャラである)。
 
 ★必然性を感じない密室トリック
 
 そして肝心のトリック。本作品では二つの密室、そして一人の失踪事件が出てくる。失踪事件に関してはおまけみたいなもので、ポイントは密室事件なのであるが、どちらも必然性に欠けているトリックであり、これで長編を書けるのがある意味での作者の凄みである。
 メインである第一の密室こそ、作品全体を通して一応は伏線を張っているのだが、第二の密室に関しては「あ、そうなんだ」といった感じのインパクトしかない。こちらも一応伏線は用意されているが、密室を構成する小道具と犯人に関連性はなく、別にこの作品で出さなくても良いんじゃないかと思えるトリックである。
 また第一の密室に関しても、確かに前述したように伏線はある。あるにはあるのだが、それもまた巧妙に配置されたのではなく、かなり大雑把に用意されている上にこちらもインパクトは弱い。密室自体、強固で堅牢な密室ではなく、足場の弱い密室なので、最後まで「実は合鍵あったんじゃないの?」という疑念が払拭できなかった。特に序盤で提示される伏線は納得いかない。極端な話、この作品ではそう書いているからそうなんだろうなと思うしかないのだ。
 
 ★総評
 
 このように、登場人物、事件のどちらも緩く、そして地味な印象が強く、読み終わった後の爽快感はあまりない。また、学園モノである必要性さえ薄く、またそういった側面の魅力にも乏しい。極端な話、この事件を鵜飼探偵が解いたとしても何の問題もないのだ。また、一番アクティブに動くのは部長の多摩川だが、彼はミスリードを回収する役目を負わされてしまっているので、事件を解決出来ない鵜飼探偵という、始末に終えないキャラクターの域を出ず、強い魅力は感じない。
 いつも通りの東川作品である。もし一冊でも読んでいて拒否反応を起こした方は読まない方が良い。氏の作風を嫌いではない、もしくは好きな人なら無難な一冊であると思う。百点満点方式で言えば、60点が妥当か。私自身、東川氏の作風が嫌いではないので何だかんだで五冊くらい読んでるからだ。
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福田 文庫(フクダ ブンコ)
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1984/06/25
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 24歳、独身。人形のゴジラと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
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