このブログは福田文庫の読書と創作と喫茶と煙草……その他諸々に満ちた仮初の輝かしい毎日を書きなぐったブログであります。一つ、お手柔らかにお願い致します……
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 著者名/剣持 鷹士 出版社/創元推理文庫 個人的評価/30点 内容/ 開業を夢見る若き弁護士の僕は法律事務所に勤めている。人の数だけドラマがある、ましてや弁護士に持ち込むのだから、というわけでもなかろうが、ともすれば理解に苦しむ依頼にぶつかる。こういう場合に重宝なのが友人のコーキで、彼の端倪すべからざる推理力には高校時代から舌を巻くばかり。あきらめがいいんだか悪いんだか判然としない客のことも、飲みながら話すうちに…!第一回創元推理短編賞受賞。 要約/ 法学部卒の作者が弁護士を主人公に描いた、弁護士的日常派ミステリ。 何よりも主人公の性格が承服しかねる作品。事件も地味で、主人公の性格も見えてこない上に時折覗かせる性格は描写不足なのか悪い。 推理小説に名探偵のカタルシスを望む方には絶対お勧め出来ない一冊。個人的には本書を敢えて読む理由が何一つ見出せない。 法学部出身の作者が描いた若きイソ弁が主人公の本作品。とは言っても、推理するのは作者と同名の弁護士・剣持鷹士の親友である女王光輝だが。
自分は本当によく恥ずかしくも無くミス研の会長を四年もやっていたなと客観的に思えるほど推理小説に関する知識がないので、この作者のことは何にも知らずに古本屋で本書をゲットした。調べてみればこの人、かつて『競作五十円玉二十枚の謎』の公募企画で最優秀賞をとったこともある実力派だったということを読み終わってから知りました。
餅は餅屋と昔から言いますが、別に法学部出身の人が弁護士を主役に据えた推理小説を描いたからといって、とても面白いミステリになるとは限らないというのが本書を読んで最初に感じたことである。確かに主人公の日常的な部分においてはリアリティが確保される。自分は文学部だし、法学部の友人は確か一人いたが退学してしまったし、弁護士の知り合いなんていないから本当に本書に描かれている剣持弁護士の描写がリアルかどうかは定かではないが、多分リアルだと思う。そして、本書で起こる事件の大半が弁護士としての仕事が絡んでいるので、事件を展開する流れもスムーズである。少なくとも自分が大学時代に書いていた、兄が優秀な警察のエリートで、事件の捜査に無理やり呼ばれる女子大生なんて、馬鹿みたいな設定より遥かにスムーズであるし、リアルな展開である。
だが、それはそれ。推理小説としての面白さに100%貢献するかと言えば、それは別の話である。『マッハGoGoGo』の製作者がみんな運転免許持ってなかった例を挙げる訳じゃないが、リアルじゃないことが作品の魅力を高めることもあるのだ。これは逆に言えば、リアルであることが作品の魅力を損ねることもあるということであって、残念ながら本書はこちらに属しているように個人的には感じた。それが顕著に現れているのが、主人公である剣持弁護士の人間性である。弁護士という職業が全面に押し出されているために、どうしてもそれ以上の性格的な部分があまり窺い知れず、また時折見られる彼の人間性に余り魅力を感じなかった。自分の仕事に対して仕事と割り切っているようなところはリアルかもしれないが、厄介な依頼人に苛立ったり、金にならない仕事に憤ったりするシーンなどは読んでいてそんなに楽しくはない。別にとびきり人情派で困っている人なら例え無一文でも手を差し伸べるなんて、徳が高いフィクションの弁護士を描けとまでは言わないが、もう少し読んでいて格好良いと思える嘘も必要ではないんだろうかと思う。あと親友の女王光輝だが、安楽椅子探偵なので仕方ないかもしれないが、露出が少なかったように思える。主人公との会話で推理が成り立つのは大前提として大いに分かるのだが……
以下は個別の感想を。たまにネタバレするので味読の方はお気をつけ下さい。
「あきらめのよい相談者」
表題作である。ホテルのガラスドアに気付かず頭をぶつけた依頼人がホテルの対応が気に入らず裁判を起こしたいという、素人でもクレーマーだなぁと思うような依頼人の相談を剣持弁護士が受ける。この手の相談者は面倒くさいと相場で決まっているらしく、剣持弁護士もその後の展開は覚悟しつつ話を進めていくが、呆気ないほどこの相談者は引き下がり帰っていくのだ。だが、その後この相談者が同じビルに入って入る他の弁護士にも同じ相談をしていることが分かり……という感じの作品である。
相談者の奇妙な行動から、まさかの殺人未遂にまで話が転がっていく。表題作だけあって、四作品の中では一番面白い。四作品とも全部日常派に近いものなので(弁護士という設定上、事件絡みであるという形だけは日常派でないものもあるが)、会話の中に転がるヒントを上手く繋ぎ合わせていくところに作者の巧みさが窺えるものだが、その巧みさが一番高いのはこの作品だろう。
「規則正しいエレベーター」
女王と剣持の友人である広瀬彰彦という人間が話す自分が住むマンションのエレベーターの規則性から始まる話。はっきり言って面白くない。個人的にエレベーターが何階にあるからどうのとか、そういう目先のややこしさを紐解かなければならないミステリは苦手なので(だから時刻表がどうだとかいうのも大嫌いです)、その嗜好が評価に大きく影響しているとも思えるが、一番気に入らないのは、作品のどんでん返しを担う部分にある。この作品は広瀬の住むマンションのエレベーターだけの話かと思いきや無関係に思えた剣持が相談を受けていた相談者と事件が絡むというところが肝だと思うんだが、その絡め方が気に入らないのだ。細かい描写は省くが、要するに婚約者のいる女が急に結婚式も予定しているのに、一人暮らしを始めた。その理由が他に好きになった男が住んでいるマンションと同じマンションに住むためだというのである。この理由を納得できるかどうかが、作品の評価を左右するところであろう。自分は納得出来ない。まだ婚約者の段階だから、さっさと別れれば良いのに、浮気しつつも婚約者をキープする女。しかも、その浮気の仕方がマンションに部屋を借りるというものだ。これにはどうにも理解しかねる。
「詳し過ぎる陳述書」
これは実際に剣持弁護士が受けた依頼をメインに据えた事件である。離婚についての相談を女性から受けた剣持弁護士が、女王の助言を受けて裁判に勝つという内容で弁護士が主人公の作品として実に王道である気がしたが、肝心の推理部分は作品の中で一番気に入らない。「あきらめのよい相談者」が会話の中に巡らせた伏線の張り方が秀逸だと言ったが、これは逆に駄目なのだ。レベルとしては『逆転裁判』の最初に出てくる事件みたいな感じである。先に書いた「規則正しいエレベーター」はゴチャゴチャとした描写が煩雑で、その煩雑さが事件の判りにくさを与えていたが、今度はあまりにシンプル過ぎる。離婚しないと頑張っている相手の旦那が提出した陳述書と、剣持弁護士に依頼をした女性の証言を照らし合わせて嘘を見抜くという内容だ。まぁ、その嘘というのは旦那が新興宗教にのめり込んでいて、そこの宗教で買ったデカイ塔のモニュメントを嫁の家に持って行ったか否かという点なのだが、その結論は当日の天気であるというのだ。それを察する描写はまぁ、分からないでもない。室内で遊んでいる子供とか室内に干している洗濯物とかだ。しかし、この嫁が天気の悪いはイライラする性格だというのはどうだろうか? あと、天気の話が嫁から出なかったのが不思議である。結構詳細に嫁は話をしているのだが、天気だけは華麗にスルーしているのだ。傘を差さなきゃ不自然だと裁判で突っ込まれるほどの日のことを話すのに、全く会話に出てこないのはおかしいだろう。だって洗濯物を室内で干しているという話(正確にはこれに近い描写に留まっているが)までしてるのに、雨のことが全く出てこないのはご都合主義といわざるを得ない。これではただの間違い探しである。
作品の最後で剣持は、
しかし「現実」は、しばしば「問題」だけを提示して、正答を与えてくれない。
(前略)「現実」はそういう構造なのだから仕方ないのだ。
といったことを言っているが、これは小説であって、正答を最後に用意すべき「非現実」だろうと言いたくなる。確かに実際の裁判では、天気の話が出てこなくて不利に裁判が進んでしまうなんてこともあるのかもしれないが、推理小説であるのに、トリック的な部分が「天気のこと聞かなかったわ」では余りにお粗末だろう。こんなリアリティは全くの不必要だ。
「あきらめの悪い相談者」
短編集の最後を締めくくるのは、表題作に対を成すタイトルを冠した「あきらめの悪い相談者」である。個人的にどうでもいい事を書くとするならば、なぜこちらのタイトルは「悪い」が漢字なのかということだが、そんなタイトルがシンメトリーかどうかなんて、名探偵コナンの劇場版第一作の犯人ではないので気にしないで続けようと思う。
こちらは表題作とタイトル通り正反対で、とにかく諦めの悪い相談者がしつこく剣持弁護士に食い下がって質問を続ける。しかもどうにもならないような案件を三つも寄越してくるのだ。これには流石に剣持弁護士も怒って、三回目は電話での相談であったが、かなり冷たく扱ったりもする。このシーンなんかは悪い意味で、剣持弁護士の人間性が出ていて、個人的には嫌いなシーンだが、偶然にも本書を読んでいた知り合いが言うには、この作品がもっとも剣持弁護士がリアリティのある弁護士として描かれていると割と評価していた。人によって受ける印象は千差万別である。
事件としては、その諦めの悪い相談者が人を殺したことを早朝のニュースで知った剣持弁護士が、一緒に飲み潰れていた女王光輝と広瀬で誰を殺したか考えようというもので、一般的にある犯人探しとは逆の被害者探しの内容となっている点が面白い。前に書いた三件の相談が全て、被害者候補の情報となっており、我々はその中から被害者を探そうとする。
作品として、問題が非常に分かりやすく提示されているし、それなりのどんでん返しも用意されている。被害者を絞り込む条件付けも納得行くものが用意されているので、表題作より面白いかもしれない。
推理の部分に関しては概ね満足の行く出来栄えであるが、やはり私が最後まで不満に感じたのは主人公である剣持弁護士のキャラクター性である。終始、リアルな弁護士として描かれる剣持弁護士と、それとは逆に高い観察力と推理力を兼ね備えながら司法試験に合格していない女王光輝(剣持弁護士はモラトリアムを決め込んでいるから合格しないのだと解釈している)が描かれているが、作者はこの二人の登場人物にどんな思いを込めたのであろうか。この作品の最後を抜粋したいと思う。
うまいものを食うという快楽には、本来的に、作る苦痛、片付ける苦痛が伴う。食う行為しか経験したことのない人間はどうしても、快楽の影とも言うべきこの不快まで思いが至らない。しかしそれに苦しめられることなく快楽だけを享受することは、許し難い欺瞞行為である。
この文章は最後に、加害者となった相談者が、もし自分に弁護を依頼してきたらどうしよう? 殺人の弁護なんて大変なだけでペイがないから嫌だなぁみたいな感想を述べる剣持弁護士に、弁護士はもっと志の高い仕事じゃないのかと口にする女王に剣持が抱いた感情だ。これは恐らく、作者が本書を通じて書きたかったことの一つではないかと思う。つまり、いかに鋭い推理で事件を見抜く名探偵も、違う側面から捉えれば、美味しいところだけを持っていく偽善者であるのだと……だが、そんなこと今さら言う必要あるのかと思う。まぁこうした問題提起自体は別に珍しいものでもないので、言って悪いということはない。ただ、仮にこのラストがその種の問題提起であるとするならば、その不十分さは目に余るものがある。分かりやすく言えば取って付けたような安易さを覚えてならない。
また剣持弁護士が女王光輝に対してこういったことを考えること自体お門違いと言える。彼が言うところの「うまいものを食う」とは、これはつまり推理をして見事に真実を指摘する探偵行為だろう。では、作る苦痛と片付ける苦痛とは何か。恐らくは前者が事件に立会い情報を集めたりすることで、後者が真実が明らかになった後の正しく片付けに相当する行為であろう。ただこの比喩の決定的な間違いは、女王には最初から作る機会と片付ける機会がないということだ。前述した通り、彼はまだ弁護士ではない。だから彼には食う快楽に本来伴う二つの苦痛を感じる機会がそもそもないのだ。あくまで比喩でつなげるとするならば、女王はレストランに来た客なのだ。出された料理を正しいテーブルマナーを駆使して頂き、隠し味や素材の良さを見抜き料理を評価して平らげた。ただそれだけのことである。これを厨房から睨みつけ、あいつは料理を食べるだけで作る人間の苦労を知らない奴だと吐き捨てるコック、それが剣持弁護士なのだ。そもそも、大半の事件は剣持弁護士が自分から女王に相談を持ちかけているのだし、こうした憤慨自体間違いである。
表題作では女王を「真友」とまで持ち上げ、彼の推理能力を高く評価しておきながら、ラストでここまで貶めている剣持弁護士を作者が計算して描写しているのだとしたら、それは成功である。剣持弁護士の人間としての未熟さがよく描かれている。だが、その描写がシリーズの続編を待ち望む気持ちにつながるかと言えば、私に限って言えばノーである。
この作品を総評して思うことは、地味だということだ。
事件自体が地味なのは日常派の体裁を取り、そして安楽椅子探偵であるという点である程度は我慢できる。だが、主人公である剣持弁護士の人間性は弁護士という職業以上のものが見えてこず、たまに見えたとしても、人間としてあまりに未熟な負の要素ばかり。この作品を敢えて読む必要性は見つけられない。
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社長より
久しぶり。
で本題だが、携帯電話が水没してデータがぶっとんだ。糞バカ高いドコモサンの機種変にうんざりして、auに切り替えたんだわ。なんでアドレスが違うんでよろしく。このコメントに気づいたら電話くれ。 ![]() |
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1984/06/25
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24歳、独身。人形のゴジラと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
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