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32022265.jpg題名/『謎亭論処 匠千暁の事件簿』
著者名/西澤 保彦
出版社/祥伝社文庫
個人的評価/70点

内容/
 呑むほどに酔うほどに冴える酩酊推理!
 女子高の正門前に車を停め、夜の職員室に戻った辺見祐輔(へんみゆうすけ)は憧(あこが)れの美人教師の不審な挙動を垣間(かいま)見た。その直後、机上の答案用紙が、さらに車までがなくなった。ところが二つとも翌朝までに戻されていた。誰が、何のために? 辺見の親友であり、酒に酔うほど冴(さ)え渡る酩酊(めいてい)探偵・匠千暁(たくみちあき)に相談すると……。続発する奇妙な事件を、屈指の酒量で解く本格推理の快感!

要約/
 タックシリーズが好きならばもう少し評価は高いかもしれない。
 八作品中二作品はミステリとしても素晴らしいが、残りはミステリとして若干の難あり。かと言ってキャラものと割り切るにはファンサービスが不足している。


 
 タックシリーズの短編集である。時間軸が滅茶苦茶で、大学時代もあれば卒業後の事件もあるが、それ自体はさほど問題ではない。せめて欲を言えば時間軸の順番に作品を配置してほしかった気もしなくはないが、恐らく「新・麦酒の家の問題」は書き下ろしなのでトリを飾らせたかったのだろう。
 短編集であるので例によって個別の書評は後述するとして、まずは全体の書評である。全ての作品を通じて言えることがある。それは、人が死にすぎているということだ。それはミステリだから当然であろうという反論には大いに遺憾であり、ミステリは別に人を殺さなくても成り立つものがある。とは言え、そうでないものも圧倒的に多い訳だが、今回こんなことを口にしているのは、この作品で扱っている謎の大半は人をあえて殺さなくても十分にストーリーの完成するものが多いからである。個々の話はそれぞれ何気ない雰囲気から始まるものが多いだけに、無駄な殺しが浮きだってしまっている印象が強いのだ。また、結末がしっかりしないものが多い。もとよりディスカッション形式の謎解きを交し合う四人の姿が魅力の一つでもあるのがこのタックシリーズではあるのだが、この短編集では大学時代以外の作品では四人が一堂に会することはないので、タックやタカチが揺ぎ無い自信のある口ぶりで推論を述べて終わるものばかりだ。作中でも登場人物が「これは想像だけど」みたいな前ふりをしている場面が多く、そして想像の範疇での結論のままで終わってしまうので、どの話も終わりに唐突さが目立つ。
 それでは、個々の書評に移りたいと思う。一部に結末を示唆してしまう描写がありますので、未読の方はご容赦下さい。
 
 
「盗まれる答案用紙の問題」
 ボアン先輩が女子高の先生になっているのだが、そこでテストの答案用紙が盗まれてしまう。犯人は如何なる意図で答案用紙を盗んだのかという話。
 この短編集の中ではこれと、次の「見知らぬ督促状の問題」は出来が良いほうだと思う。その共通点は何かなと思うと、挙げた二作品ではちゃんと犯人を指摘して終わっているのだ。それこそ警察に突き出したりまではいかないが、結末がちゃんとしているのでミステリとしての完成度は高い。
 この作品では人は死なず、そして消えた答案用紙の問題に被せてボアン先輩の車が消えるという事件も起こるので、なかなか読み応えがある。答案用紙が盗まれる真相と犯人の犯行動機もまた、作品の中できちんと提示されており言うことがない。この調子で全作品書かれていれば、かなり評価は変わってくるのだが……
 
「見知らぬ督促状の問題」
 広末倫美という女子大生の下に、身に覚えのない督促状が届く。そればかりか彼女の住むアパートの住人にも同様の被害があり、いったい誰がどんな目的でこんなものを送ったのかという話。
 この作品は大学時代の話で、恒例であるボアン先輩宅での飲み会に広末さんを交えてのディスカッションが見られるので、正当な短編作品の印象が強い。この作品では後半に殺人が起きるのだが、前述した無駄な殺人ではなく、最後のどんでん返しという演出上、必要な殺人であると思える。と、先に書いてしまったが最後のどんでん返しはそれなりに楽しませてくれるし、タックが自分の推理に「蓋然性」を連発するものの、それなりに屋台骨はしっかりした推理であるので文句はない。ただ一つ無理に注文をつけるとするならば、どんでん返しで明らかになる、ある人物の悪意に関する伏線がどこかに欲しかった気がしないでもない。
 
「消えた上履きの問題」
 またボアン先輩が勤めている学校での話。クラス全員の上履きが何故か盗まれるという事件から生徒の死体が発見される問題にまで発展していくのだが、この作品は浜田智佐という登場人物とその行動に納得がいくかどうかで決まる。この人物はボアン先輩が授業を受け持つクラスでの問題児で、クラスの人間に対し常に水を差す言動を繰り返して村八分にあっているという設定なのだが、こうした彼女の情報を最初の場面で一気に説明してしまう。これを踏まえての事件なのであるが、正直なところ、この程度の説明では事件の結末には納得がいかない。また事件に加担した三人の生徒の動機とその行動にもいまいち納得がいかない。言ってしまえば上履きがなくなったのはフェイントであり、真相は別のところにあるのであるが、このミスリードには誰も引っかからないので本当に必要であったのかさえ怪しい。確かに犯人にしてみれば必要なのであるが、作品としてもっと大きく扱ってやっても良いのではないかと思う。タックが引っかからないのは当然としても、一人称の語り部を担当しているボアン先輩まですぐさま看破してしまっては作品として意味のないフェイントである。読者が引っかかる暇さえないのだから。あまつさえタイトルに持ってきている謎である。扱いがいまいちぞんざいなのだ。極端な話、別に体操着でも縦笛でも何でも良いのだ。どうせ盗まれるなら、ブルマとかのほうがミスリードに一役買って良いと思うのは私だけだろうか。本筋にも注文をつけるならせめて、浜田を先の「盗まれる答案用紙の問題」で、それとなく登場させ暴れさせておけば良いのであるが、あまりに唐突な死である。
 
「呼び出された婚約者の問題」
 ウサコが結婚しており、その旦那で刑事の平塚総一郎が自分の担当した奇妙な自殺事件の話をするという流れである。私が個人的にウサコをあまり好きでないというのもあるのだろうが、あまり面白くない。便宜上、ウサコが探偵役を務めて話がすすんでいくのだが、私は既にそこに違和感を感じてしまったりする。門前小僧の何とやらでウサコも伊達にタックの推理を聞いて来たわけではないだろうが、それでも結末のあやふやさと相まってオチに不十分さを感じる。
 かつての婚約者にいきなり会いたいと電話してきた女が約束の日に見知らぬ男と無理心中を図っていたという事件なのであるが、ほとんどが推測である。まぁ作品の冒頭に旦那が女性の物の考え方に関して聞きたいといっているので、話としてはおかしくないのだが、ミステリである以上、女性の物の考え方って怖いなー、はいおしまい。では駄目だろうと思う。また、ウサコと旦那が片っ端から仮説を挙げていくのだが、どれも基本的には根拠の薄いものなので読んでいて長ったらしく感じる。殺人だとしてそこにトリックがある訳でもなく、単に情報が少ない中で推理をしているゆえの不透明さなので、魅力をまるで感じない。下手な鉄砲をウサコが撃ちまくり、的に当たったかは最後まで確認しない……そんな事件である。
 
「懲りない無礼者の問題」
 またボアン先輩の学校での話である。こうして羅列してみると非常に偏っている。ウサコには振らなくて良いから、もう少し均等に事件を振り分けられなかったのであろうか。事件は、バスの中で舞台である安槻市をバスで罵倒しまくる二人組の話からまさかの殺人事件に発展する。この話とウサコのやつは本当に面白くない。
 まず二人組が罵倒をするきっかけが出てこない。そして、意味も無く死んでしまう二人組に喧嘩を売り、後日死んでしまったボアン先輩の同僚の先生の息子さん。そして挙句、ボコボコにされて一人死んでしまう二人組。この作品が一番、死に対して無駄を感じる。正直、この話で死んだ人は大怪我で留めても事件自体には影響がないのである。先生の息子さんなんか、急に殺されたといわれても困る。
 二人組の罵倒理由だが、一回目に関しては辛うじて理解を示せるものの、二回目に関しては理解しがたい。常軌を逸した二人なんだよと言ってしまえばそれまでだが、結果として人を殺している人間がもう一度目立つような真似をするわけがない。また、息子さんが殺された事件は、警察に話しても無駄みたいなムードが作品の中にあるが、ここには非常にリアリティを感じない。いや、絶対に二人組は逮捕されるだろうといいたい。この点が作品最高の違和感である。ミステリにおける事件にまつわる行動には、それをするだけの理由が伴っていて欲しい。これは、明らかに行動と理由が釣り合っていない。これが作品全体の違和感をもたらしている。無駄に殺し過ぎなのだ……
 
「閉じ込められる容疑者の問題」
 タカチが隣に座ったカップルの話す密室殺人を解くというもの。
 これはすぐに想像が付いてしまうので、わざわざ作品にする必要を感じない。しかも想像がつくものの、ミステリとしては失格レベルのオチである。まずタイトルで結論を示唆している意味が分からない。容疑者とされている二名は、その閉じ込められるとされている家の住人であり、厳密には閉じ込められていないのだから。
 本筋に関しては面白くなくて言うこと無いので、タカチの話をしよう。ここでは唯一、卒業後のタックとタカチの絡みを少し見れるのだが、それより何より、作者のタカチ賛美がマックスレベルで読んでいてかなり白ける。確かにこれまでの作品にもタカチ賛美はあった。キャンパスの美人がタカチの周りに集まるとかどうとか色々とあったが、この作品でのタカチ賛美はあんまりだと思う。
 
「印字された不幸の手紙の問題」
 大学時代の四人が集まる話。ウサコが家庭教師をしていた子の元に届いた、一風変わった不幸の手紙に込められた意図を酒を飲みながら考える正統な感じの作品。だが、謎に関しては面白くない。多分これを読んでミステリのカタルシスを感じた人はいないと思う。そういう謎にもなっていない謎をなぞらえて見るという意味では、「閉じ込められる容疑者の問題」と似ているが、決定的に違うのは一応でも犯人を示唆するものが全くないのである。犯人を限定したタックの言いたいことは一応分かる。分かるが、それはただの雰囲気論であるのだ。推論をした上での答え合わせもない。キャラものだと割り切れば、読めなくはない。ただミステリではないと思う。
 
「新・麦酒の家の問題」
 『麦酒の家の問題』という作品があって、状況がそれと似ている事件に巻き込まれる大学時代の四人である。個人的には『麦酒の家の問題』は、最後にオチがあったからギリギリ許容できる作品であり、わざわざ続編みたいなものを作るほどの作品ではない気がするのだが、それを言っても始まらないので進める。
 ボアン先輩がかつて知らずに付き合っていた人妻のストーカー行為に対抗するため、その人妻の家で飲み食いをしてやるという無茶苦茶な流れの中で飛躍した発想を巡らせた挙句に合っているという事件。受け取り手のいないビールが届いているのを見ただけで、あの結論にまで達せられるのは作者の腕かもしくは力技かと聞かれれば、私は正直、力技だといわざるを得ない。
 
 最初の二作品以外はあまり読むべき価値はない。ただそれはミステリとしてであり、その後の四人を読めるという点に、ファンからしてみればお買い得感があるのかもしれない。だが、キャラものと開き直って読むにしては、そっち方面の描写は乏しい。文庫本の方を買えば、一応四人のイラストが拝めるので、これでどうにか自分を誤魔化すしかないのだが、それならいっその事、開き直って推理無しの四人の日常を延々と読まされたほうがマシな気がする。作品の評価というよりは、褒めた二作品の評価である。
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