このブログは福田文庫の読書と創作と喫茶と煙草……その他諸々に満ちた仮初の輝かしい毎日を書きなぐったブログであります。一つ、お手柔らかにお願い致します……
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 出版社/光文社文庫 著者名/鳥飼 否宇 個人的評価/0点(焚書指定図書) 内容/ ロックバンド「鉄拳」が神話的存在になったのは、あまりにも衝撃的なデビュー公演のためだった。密室状態のライブハウス。演奏中、メンバー全員が突如姿を消し、ステージ上にはプロデューサーの死体が。メンバーの消失方法と、その後の行方は謎のまま…(「廃墟と青空」)。ロック、現代アート、マッド・サイエンスを舞台に展開される、痙攣的なまでに美しい本格推理。 要約/ バカミスという、新たなるミステリ解釈を貶める悪書。SFともミステリとも付かぬ内容に、陳腐なトリックと手垢の付いたオチを塗している。本書にとって書き下ろしとは、滑ったコントのネタを改めて説明するのに似て下劣。 バカミスというジャンルがある。
「このミス」で以前に、この不安定なジャンルを一応体系付けようと特集が組まれたことがあった。過去の作品を例に挙げて、何項目かの条件を提示してはいたが、最終的な結論としては、言ったモン勝ちみたいなもので落ち着いていたように記憶している。
個人的には、バカミスと世間で評価されているものの大半は、バカミスとは思っていないが、好きな部類の作品が多い。個人的には、バカミスはトリックの出来栄えをパラメーターで示した時に、現実的という項目を大きく振り切ってしまったものだと考えている。かつてトリックの奇抜さに走る余りに小説としての完成度を蔑ろにし、ジャンルの衰退を招いた過去のあるミステリであるが、小説のジャンルとして確固たる地位を築いた今では、目くじらを立てて襟を正せと怒る人が減っただけのことで、バカミスとは言ってみれば原点回帰的な部分がある。新本格の旗手として綾辻行人とその作品『十角館の殺人』が挙げられるのは言うまでもないが、バカミスとはトリック一点にのみルネッサンスのベクトルを注ぎ込んでいる。だから、舞台、登場人物、雰囲気、トリックといった様々な要素に原点回帰の思いが込められた『十角館』は、バカミスではないと私は思う。
そんな私が本書を読んでも、まるで面白みを感じないのだ。
確かにオチの付け方がバカなバカミスもあると思う。鯨統一郎の作品はその傾向があるものが何作品かあるし、他にもたくさんあるのだろう。
だが、往々にして一発逆転を求めるとそれはSFになってしまうのではないか。これはSFファンを敵に回しかねない発言かもしれないが、身内のSF好きは案外肯定していたので続けたいと思う。非常にアバウトな説明をすると、ストーリー自体にバカを求めるとSFで、トリックにバカを求めるとバカミスだと思う。バカだろうがアホだろうが、ミステリである以上はそこにトリックがあり、そしてトリックは論理的に解かれなければならない。そしてそれがフェアな説明の上で成されれば言うことはないが、まぁフェアかどうかは百歩譲っても良い。ある程度アンフェアでもトリックは論理的に解かれなければならない。
だが、バカミスがストーリーにバカを求めてはその意味がなくなるのだ。ミステリは基本的には、現実世界での常識を適用しているという大前提がありきなのだ。密室トリックを扱う作品に、いちいちこの作品の世界には壁抜けの術を使える人間は存在しませんという注意書きは入らない。それは現実的にそんなやつはいないからだ。しかしながら、ストーリーそのものにバカミスと分類される作品がオチを求めると、その根幹部分での約束を反故するケースが多い。私はそれが許せないのだ。バカはあくまでトリックに……こうしたスタンスをお持ちの読者は本書を読まないほうが良い。
本書は一応、連作短編なので、個別に感想を書いてみる。何かジャーマン・ロックの知識が織り交ぜてあるらしいが、ロックなんて聖飢魔Ⅱと筋肉少女帯しか聴かないのでそこら辺はスルーしていく。あとネタバレしています。
1.「廃墟と青空」
伝説のバンド「鉄拳」の伝説のライブで起きた殺人事件。
ライブ会場が現場であり、一応は密室殺人という扱い。ただそのトリックは余りにお粗末過ぎる。要になっているのが犯行時間をずらすという点にあるのだが、殆ど憶測で考えるしかないトリックである。要するに、銃声だとみんなが思っていたのはゴムボールが割れた音で、そのゴムボールの破片は犯人が急いで回収したから証拠はないと言い出すのだ。しかも犯人はその後ステージにダイブして観客に紛れ込んだと言い出す。ロックバンドっぽいのは良いが、その目撃者が全くいないというのがおかしい。
JHの正体はミステリファンならすぐに分かるし、話の流れから言って主水の正体もすぐに分かる。ミステリとしても、バカミスとしても評価するポイントが分からない。
2.「闇の舞踏会」
残念ながらミステリらしい体裁を保っているのは「廃墟と青空」のみであり、この短編は「二銭銅貨」を何の捻りもなくパクッたような暗号と、ちょっとしたどんでん返しを用意している。ただ、この暗号は知識専攻型というか、知らない人には絶対分からないタイプのもので、解き明かす楽しさは皆無。しかもどんでん返しと言葉の文で書いてはみたが、短編でしかも大した工夫もない状況でこれをやって、誰が果たして引っかかるであろうか? これはもうミステリですらない。
3.「神の鞭」
孤島で行われる大掛かりなイリュージョン。そのイベントで起こる不可解な事件と月の消失マジックを扱っている。
月消失に関しては、消去法で考えていけばそれくらいしかないと言える。ただこれを本気で作品に使うのはある意味すごい。トリックのレベル的にはドラマ『トリック』でミラクル三井が使いそうなレベルである。
不可解な事件の方は、誰がどうやって被害者を刺殺したのかというものだが、これはギリギリの線でバカミスかなというレベルだ。早い話、倒れた鉄塔に置き忘れてあったナイフが、鉄塔が倒れた時に吹っ飛んでいって刺さるというものだが、これを成立させるためには、先に書いた月の消失トリックを前以てキッチリ解いておかないとフェアではない。話の展開や扱われる事件とか諸々含めて、本当にドラマ『トリック』みたいな話である。
4.「電子美学」
今までの三編を総括したようなメタ的な要素の作品。ただ、この手のバーチャルリアリティー云々を持ち出す話は岡嶋二人の『クラインの壷』でもう終了したと思っている私には魅力がない。しかも、話のオチ自体が『クラインの壷』の二番煎じみたいなものなのだ。五人の人間の感覚が入れ替わるというネタは面白そうに聞こえるが、結局のところ、単なる犯人当てに終始してしまう。
5.「人間解体」
書き下ろしで追加された話。
「電子美学」で説明しきれなかった点をフォローするために書き足したかのような内容に、ヤリイカで人の腹を刺すというどうでも良い事件が申し訳程度に書かれている。ヤリイカで刺殺という発想は、霞流一みたいで、ようやくバカミスっぽいと思いきや、これは登場人物が会話で適当に説明して終わってしまう。
まぁ、作者としてはタイトルの「痙攣的」という言葉にこそ重きを置いて書いたのだから、そんなトリックはどうでも良いのだろうが、わざわざ書き下ろしを追加してまで説明するほどの話ではない。単純に「電子美学」での説明は悪いだけで、しかもこの書き下ろしを追加するという行為は、受けなかったギャグの何処が面白いかを改めて説明する行為よりも空しい。
総括として。
話のオチとしては三流のSF作品であり、またミステリとしても完成度は限りなく低い。というか、ミステリですらないと思う。この作品はどういった層をターゲットとして書かれているのか理解できない。余りに面白くないので、読み終わった後にもう一度目を通したが、やはり面白くない。解説には「論理を論理で笑う」といった評価もあったが、この作品のどこに論理的要素があったのか教えて欲しいくらいだ。
もし仮に、この作品の各章で起こる事件の一つ一つに論理的なトリックが用いられていて、その挙句に最後のオチを付けたとしたら百歩譲って上記した評価も適当かもしれない。しかし各章の事件はどれを取っても、ミステリとして出来の悪い粗悪なものばかりで、トリックすらまともに出てこない。その挙句に手垢の付いたSF的などんでん返しを見せ付けられれば、誰が得をするというのだろう。
一冊の本でその作者を判断するのは愚行なのかもしれないが、私はこの作者に関して言えば二冊目を手に取る気持ちがまるでない。こんなものがミステリなどと銘打って本屋に並んでいること自体が許しがたい。これほどに怒りを覚えたミステリは、ミステリという扱いをしてる恩情を見せるならば『らき☆すた殺人事件』なる低俗な悪文を並べた竹井10日以来である。PR ![]() ![]() |
カレンダー
フリーエリア
最新記事
(05/25)
(12/14)
(06/06)
(06/03)
(05/30)
最新トラックバック
プロフィール
HN:
福田 文庫(フクダ ブンコ)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1984/06/25
職業:
契約社員
趣味:
コーヒー生豆を炒る
自己紹介:
24歳、独身。人形のゴジラと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
ブログ内検索
カウンター
|