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このブログは福田文庫の読書と創作と喫茶と煙草……その他諸々に満ちた仮初の輝かしい毎日を書きなぐったブログであります。一つ、お手柔らかにお願い致します……
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sa.jpg題名/『念写探偵 加賀美鏡介』
著者名/楠木 誠一郎
出版社/講談社
個人的評価/5点

内容/
  マニアも一目おく老舗カメラ店店主・加賀美鏡介。気に入らない客には商品を売らず、何かにハマると周囲が見えなくなる変人だが、モノに込められた念を写す能力を隠し持つ。その彼に顧客殺害容疑が!?友人の作家やゴスロリ店員と共に真相を追うが、被害者の茶碗から秀吉が念写され、鏡介の興味は千利休ミステリの謎解きへ!あれれ、殺人事件の謎解きはどうした。
要約/
巻末の書籍紹介に痛快推理小説と銘打っているが、これは恐らく「痛々しいほど解決に推理が必要ない小説」の略だろう。でなきゃただの詐欺だ。


 
 狸小路にあるラルズでは、年に何度か八階祭事コーナーで古本バザーが行われる。この事実を知ったのは情けないことに大学に入学してからであり、それもよく利用する古本屋の店主(店員には社長と呼ばれている)に伺ってからのことだから、利用するようになって僅か5年ちょっとではないかと記憶している。だからいつから始まった行事で、どういった規模で開催されてきたか、その全容を知っている訳ではない。だが、私が利用させてもらうようになってから年々、その質は低下しているように感じられてならないのは、時代の流れなのか、それとも自らの蔵書が大学時代を経て多少は潤い、目が肥えてきたのかその判断は難しいところである。
 と言う訳で、今年の夏も開催された夏休み古本バザールに行ってきた。その名前だけ聞くと、夏休みの小中学生でも対象にした行事のように聞こえるが、置いてある本はどれも一般的な小中学生がページを捲るどころか、手にさえ取らないものばかりだった。とは言えこちとら間もなくアラサーのおっさんであある。たっぷり一時間はかけて商品を物色してきたものの、少なくとも自分の琴線に触れるような商品には出会えず、とりあえずと言っては失礼だが、
『ミステリー食事学』(日影丈吉)
『念写探偵加賀美鏡介』(楠木誠一郎)
 の二冊を購入して帰ってきた。前者は何となく面白そうだから購入したが、後者はタイトルが馬鹿っぽかったので購入。取り合えず、帰りの地下鉄で読むには馬鹿っぽい方が良いだろうと思い、吊革片手に読書。そのまま帰宅して座椅子に腰を下ろして一気に最後まで読んだ。とても面白くなかったので、感想を書きたいと思う。
 
 まずタイトルからして分かると思うが、探偵は加賀美鏡介という人で念写が出来る。これだけでも、かなりアレである。
 主人公の念写を正確に説明するなら、遺品や芸術品を撮影すると持ち主の見た印象の強いものが加賀美の脳裏に浮かび、そこでシャッターを切ることで念写出来るそうだ。ちなみにこれをやるとすごく疲れるので、そんなにたくさんは出来ないという能力の制限もされている。
 この念写を使い、加賀美は自分のカメラ屋にライカを買いに来た客が持ち込んだ、千利休の茶碗を撮影した。全てはここから始まり、その茶碗を持ち込んだ客が切腹のような状況で殺害され、その手に加賀美の名刺が握られていたので容疑者にされる……という展開が、五十ページほどで起こって大体解決する。帯にもあらすじにも、この加賀美が殺人容疑者になる点をそれとなく大きく扱っているが、これはすぐに解決する。アリバイが普通にあって、難なく確認出来たからだ。しかも、調べに来た警部補が昔、この加賀美の父親にある事件の犯人逮捕に協力してもらったという過去があるらしく、加賀美にも比較的好意的。あっという間に容疑が晴れるどころか、捜査に首を突っ込む権利まで手に入れてしまい、容疑者になった窮地などの見せ場は一切ない。その描写も非常に呆気ない。
 そう。この呆気ないという言葉こそが本書に相応しい。まずは登場人物の極端な記号化が挙げられる。何も人物が描けていないという手垢の付いた常套手段でバッシングしようというのではない。必要ない記号を貼り付けて、それ以上の顔が見えてこないキャラクターしかいないのだ。
まず語り手である百目鬼は推理作家で加賀美とは大学からの付き合い。これ以上ない記号を貼り付けられた彼は、ワトソン役を忠実にこなし、加賀美が行きたくないけど興味のある事件現場で写メを取ったりする。ただそれだけ。本当に個性と言うものは一切ない。次は探偵役の加賀美。父親から譲り受けたカメラ屋で、自らの美学に見合った客にしかカメラを売らない変人……だが、これは変人という記号であり、この程度は小説などのフィクションでは変人と言う名の凡人である。容姿は素晴らしいが、自分勝手でいつも黒い服を着ており、仕事が終わると決まってパブに行く……など、百目鬼に比べればある程度細かい設定は披露されるが、その設定がいちいち狙い澄ましたように安っぽい。誰も知らないラノベの主人公みたいな設定である。一応、カメラ屋だけあってカメラの知識は豊富で、作品の随所にカメラに関する知識が出てくる。これは大半がカメラに関しては素人の登場人物に説明する体裁を取っているので、カメラなんて携帯の機能でしか所持していない自分にも少しは分かりやすく書かれているものの、作品にとっては全く必要のない知識であったのは非常に残念であった。この作品を読む上で必要なカメラの知識は、ライカというカメラは非常に高価だということとだけだ。
あと、加賀美の店でバイトしている大学生の設楽奈緒美というのがメイド喫茶でバイトを掛け持ちしているという理由だけでメイド服をいつも着ている。その正確はいかにも五十代の作家が描きそうな女子大生である。いつも思うのだが、この年代の人たちは何か女子大生に恨みでもあるのかと思うくらい、頭が空っぽな女性像を描く。一概にそうとは言えないが、少なくともこの設楽はその典型であり、喋り方がキモい。推理小説の出来に、ヒロインの喋り方がキモいか否かは関係ないが、「~~ですぅ」みたいな喋り方を、講談社ノベルで意味もなく出てくるだけで悲しくなってくる。それと後は、事件を担当している夏木警部補と秋葉刑事だが、問題なのは秋葉刑事である。夏木警部補は大別して二種類に分けられる推理小説における刑事の「主人公である一般人に対して結果的に情報提供を惜しまない協力者」の典型だと思ってもらえれば良い。この人が記号化されてるのはしょうがない。その方が話が早くて良い。ただ秋葉刑事が、オタクで設楽を見た第一声が「萌え~」というのは頂けない。苗字が秋葉でオタクでメイドが好きと言う、素人でも書くのを躊躇う露骨な設定の刑事だが、ストーリーには全く関与しない。主な役どころは警部補に叩かれるのと設楽に気持ち悪がられるかの二択である。
 こうした露骨なキャラクターが、その記号以上の個性を見せずに、呆気なく事件を解決していく。すぐに容疑が解かれるし、別にそこまで積極的に事件解決を要請されてもいないのでしょうがないが、基本的には千利休の切腹の謎を考える片手間で、事件を推理していく。何でそんなに千利休にこだわるか言えば、設楽が大学のレポートに書くから、その手伝いだそうだ。どうでも良い。
 そんな適当な理由で、加賀美は利休の切腹の謎について調べ始める。と言っても資料を集めるのは設楽であり、その知識はネットで誰でも調べられるものばかり。その程度の情報が作中で大半を占めている。というか、中間部分は日本史のお勉強状態だ。情報と言えば、念写で得た情報があるじゃないかと思われるが、そこから得られた情報というのは、利休が切腹したのは間違いないということと、その茶碗は本物ということだけで一切役には立たない理由だ。
 そんなお勉強会が進んでいく内に、加賀美は利休に切腹に一つの仮説を打ち出すが、自分は大して詳しくないので全然分からないながら、どうにも誰かが言っている仮設の一つにしか聞こえない。つまり、フィクションだからこそ出来るぶっ飛んだ仮説だったりということは一切ない地味な仮説である。要約すると、信長を殺したのは堺とかの大物商人で、そのことに後々気付いた秀吉が同じ商人の出である利休に復讐する意味で切腹させたというもの。そして、この一連の歴史的事実が今回の事件と非常に似ている。だから今回の事件も犯人が分かったと言い出す加賀美。滅茶苦茶である。ちなみに、犯人を断定する決め手となったのは、犯人が殺した被害者の家から持ち出した掛け軸とカメラを持ち出した上に自分の店に置いといたのを加賀美が見つけたからだったりする。一応カメラは金庫に入れてあった。まぁ警察の家宅捜索が入ったのだから金庫なんて意味ないが、掛け軸に至っては事務所の机の上に普通に置いてあったのだから驚きだ。ちなみに家宅捜索が入るかもしれないことは、犯人自身十分に予見出来たことであり、こんなとこに置いておく意味が全く理解出来ない。一応、これに対する言い訳なのか、犯人はその掛け軸の価値を知らない(信長が所有していた歴史的に価値のある掛け軸らしい)からみたいな会話があるが、例え掛け軸の価値は知らなくても、自分が犯した殺人の現場から持ってきたものを机の上に置いておく理由にはならない。
 こうして物証を見つけた加賀美は犯人を追い詰め、自白に持ち込む。推理と呼べるものは全くない。利休の切腹に至る経緯に事件が似ているということと、いきなり加賀美が警部補に持って来させたあるカメラ屋の火災事件の話が急に出てきて、その二つを合わせた上で加賀美がただの憶測を喋るだけ。加賀美の露骨な誘導尋問にも的確に犯人が引っ掛かり、自白して終わる。それで殺害理由であるが、被害者があるカメラ屋に放火して、価値のあるライカと利休の茶碗、そして信長に縁のある掛け軸を盗んで、結果としてその放火したカメラ屋の主人が死んだ……という事件が理由だと思いきや、それだけではなかった。最後に犯人がその理由を語るのだが、あまりにすごいので、そのまま記述しようと思う。
 
  「千田は、『利休の茶碗』を見て、こう言ったのだ。――『おれは千利休の生まれ変わりなんだ。だから利休と同じ「よしろう」という名前なんだ。あの老いぼれのコレクターなどが持っていてはいけないものなのだ』と」
 
 ちなみに、被害者も加害者もカメラ関係者であり、茶道とは一切関係ない。それにこの老いぼれのコレクターと言われている放火された人もカメラのコレクターで、千利休の茶碗を持っている理由は全くない。一緒に盗んだライカの方がどう考えても、カメラ関係者にとっては事件の引き金になりそうなものだが、何故だか茶碗が引き金だそうだ。そして、この一言が原因で、切腹したように殺害したらしい。結構な力技で、とても四十五歳の被害者に七十歳過ぎの加害者が出来る芸当ではないと思うが、そこら辺はもはやどうでも良い。ただ、この見立てはひど過ぎる。その意味が推理小説的には何の意味もないからだ。本来の見立て殺人は、何らかの意図があって成される。何故なら、意図がなければ推理出来ないからだ。だから、犯人の自供でようやく意味が分かるこの見立ては読者どころか加賀美でさえ推理出来なかった。まぁ、したところで事件の核心に迫ることもない、どうでも良いことだが。
 
 この様に、利休の切腹の謎に似ているという理由だけで(あと利休の茶碗が出てくるから)事件は推測され、しかもそれを歴史研究家でもなければ、茶道にも関係のないカメラ屋さんがネットで手に入る程度の知識で解決するという訳の分からない小説である。おまけに登場人物は意味のない設定持ち。メイドの格好をした店員とオタクの刑事に至っては存在理由すらない。
 利休関連の歴史とライカというカメラについての知識が多少身に付くので、その点にのみ価値がある……と、優しい人なら思ってくれるかもしれないが、私は優しくないので、この小説は推理小説ですらないと言っておく。少なくとも本格推理では断じてない。巻末の書籍紹介に痛快推理小説と銘打っているが、これは恐らく「痛々しいほど解決に推理が必要ない小説」の略だろう。でなきゃただの詐欺だ。
 あと、140ページに間違いがある。
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1984/06/25
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 24歳、独身。人形のゴジラと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
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