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(幻冬舎文庫)
西澤 保彦
個人的評価/80点
内容/
安槻大に通う千暁ら仲間七人は白井教授宅に招かれ、そこで初めて教授が最近、長年連れ添った妻と離婚し、再婚したことを知る。新妻はまだ三十代で若々しく妖しい魅力をたたえていた。彼女を見て千暁は青ざめた。「あの人は、ぼくの実の母なんだ。ぼくには彼女に殺された双子の兄がいた」衝撃の告白で幕を開ける、容赦なき愛と欲望の犯罪劇。
書評/
まず第一に、読む順番を間違えたと言わざるを得ない。
私はタックシリーズを二冊しか読んだことがなかったのだ。それも『麦酒の家の冒険』と『謎亭論処』である。この時点で非常にチョイスが悪かったが、そこに来てこの『依存』である。やはりシリーズを読む順番というのは非常に大事なことだということが今回改めてよく分かった。
内容はというと、匠千暁ことタックが、自分がお世話になっている教授の家にみんなで遊びに行って、教授が再婚した奥さんを見た瞬間青ざめる。あれは俺の母ちゃんだと……
構成は本筋であるタックの告白と、それに絡めて教授の家に行くまでに起こったいくつかの事件を追っていくというものである。本筋のタックの告白に関しては、キャラクターものとしての魅力で引き付けているのでミステリとしての関心は薄い。では、教授の家に行くまでの事件というものはどうかとなるが、こちらもさりとて面白いものはない。純然たるトリックなんかを期待してはいけない。メンバーによる掛け合いにも似た論議はある程度楽しめるのだが、これは今回に関しては完璧に推論の題し合いに近いからだ。
ならば、この作品の構成は破綻しているかといえばそんなことはない。それは、このミステリとしてはさほど面白くない謎の絡み合いは、実は本書のタイトルにもなっている「依存」という共通したテーマの下に集められており、また、個々の謎が実はタックの告白部分の解決をそれとなく示唆しているという、なかなか巧妙な作りになっている。
本書で語られる謎の裏側にある依存というテーマは、それ自体はそれなりに重いものを扱っている。家庭内暴力、性的虐待、精神病、ストーカー問題、家族問題……列挙していくと、何かもう読むのは嫌になるように聞こえるが、それほど本書の中では重く書いていないので、スラスラと読み進めていける。よく言えば読みやすいが、本書のシリーズ中での立ち位置を考えると、これは少々軽すぎたように思える気もするのだ。少々悪意ある読み方をすれば、タックの過去とその告白に説得力を持たせるために、それに見合う内容の重いテーマをくっ付けたという気がしないでもない。私は前述したようにシリーズを全部合わせても三冊しか読んでいないから何とも言えないが、それでも過去のシリーズではタックのこうした過去に関する伏線はまるでなかったように思える。だから、彼が双子の兄がいて、しかも母親に殺されたという話や、母親との対決なんかがとてもあっさりと書かれてしかも終わってしまう。
キャラクターものとしては、確かにホームカミングが終わり、タックとタカチが魔性とも言えるタックの母親と対峙するシーン。そして依存の呪いによってまるで無力となってしまったタックを救うタカチの闘いは非常に見所である。三冊しか読んでない私も良いと思ったので、多分シリーズ通じてのファンならば感涙ものなんだと思う。
ただ、重いテーマを詰め込みすぎたために、キャラクターたちの心理描写などが釣り合っていない感もあることは確かである。ただでさえ厚い本なのに、それでも内容に不足を感じてしまうのは、やはり大きなテーマを展開し過ぎて回収しきれなかった証拠のように思えてならない。ただ、全ての謎に過不足無く説明が必ずあるものだけがミステリではないというのもまた一つの真理である。本格ミステリとしては失格だが、ミステリ……そして、シリーズものの一つとしてはアリなのかもしれない。
点数は恐らく今後もこのシリーズを読み続けていけばもっと上がるだろうという期待を込めての点数である。 PR ![]() ![]() |
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福田 文庫(フクダ ブンコ)
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1984/06/25
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24歳、独身。人形のゴジラと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
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