このブログは福田文庫の読書と創作と喫茶と煙草……その他諸々に満ちた仮初の輝かしい毎日を書きなぐったブログであります。一つ、お手柔らかにお願い致します……
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 渡辺 剣次(著) 個人的評価/70点 大学からずっと利用している古本屋は、ミステリに重点を置いた品揃えで、だからこそ今でも通いつめているのだが、卒論を書いた時には殊にお世話になった。 店の店主(店員からは社長と呼ばれている)がミステリ好きなので、大学生の時には果敢に話かけたりもした。今でもたまに少し言葉を交わすが、カウンターで会計をしているときにあるものを見つけると、今でも初めて話しかけた時のことを思い出す。 それはカウンターの横に置かれた本棚に吊るされていた。ビニールに覆われた中身は生原稿で、多少癖のある文字を目で追っていくと、そこには「都築 道夫」と書かれている。大御所だ。思わず尋ねる。 「生原稿、初めて見ました」 「あ、これ? 買う?」 ビニールに貼られた値札は二万五千円。とてもじゃないが、手が出ない。千五百円とお値打ちの甲賀三郎の古書だって買わない自分には、手が出る道理がない。 「いや、高くて買えないですね」 「良い値段設定でしょ?」 どこか自慢げに社長は続けた。 「本当はね、売る気ないのさ。でも、五十万とか付けると売る気ないのバレバレじゃない? だからこの微妙な値段」 「もし二万五千円持ってきたらどうするんですか?」 「どうしようね~」 聞かれて困った。そのあと、某大学のミステリ研究会はいきなり来てまとめて古典ミステリを買い占めていったが、あんなことするのは社長室の本棚に百科事典を並べるのと大差ないとか、そんな話を聞いてから店を後にした。 古本屋の社長がどういった対策を講じているのかは結局聞けずじまいだったが、今でも会計の時に余所見をすると、丁重に奉られた生原稿を確認出来る。 そんな古本屋で見つけたのが本書だった。こういうミステリ関連の書籍を読んでいると、卒論の中間報告でいきなり戦争未亡人からミステリにテーマを変更したは良いが、四苦八苦していた頃を思い出す。まぁ、そんな話はどうでも良いのだが…… 元探偵作家クラブ書記長である著者が、江戸川乱歩先生の完成しきれなかった「類別トリック集成」を、自分なりの形で完成させたガイドブックである。
佐野洋氏の帯に寄せたコメント通り、「楽しい本」に仕上がっている。75年に刊行ということで、ちょっと昔の本であるが、非常に読み易く、私のように卒論に自らのミステリ論と小説を提出したにもかかわらず、まるで勉強をしていない人間にも優しくガイドしてくれた。
著者である渡辺氏も本書で述べているように、ネタバレには十分に配慮がなされており、未読である作品があっても読者の興を削ぐような真似はなされていない。ところどころにトリックの種明かしは入るが、それだけでその作品を丸裸にするようなことはないので、知人に面白いミステリを勧められた感覚に近い。
ただ、楽しい本である反面、江戸川先生もジレンマを感じられたであろう、データベースとしての重厚さは少し不足しているのは否めない。あくまでも古今東西のトリックを集めて羅列すれば、データベースとしては機能するが、ある意味では営業妨害に近いものになるし、一つの読み物としては素っ気無い。こういった点に悩み、江戸川先生はご自身の納得いくものにならなかったらしいが、本書では反対のスタンスで作られたように思う。つまり、ある程度のデータに焦点を絞り、あくまでも読み物としての価値に比重を置いている。
本書の中では、木々高太郎氏の「探偵小説文学論」についての言及、そして「未完の悲劇」と題された未完成作品の紹介は面白かった。不勉強な私は江戸川先生の未完成作品「悪霊」こそ知っていたが、小栗虫太郎氏の「悪霊」は知らなかった。
自分でも、「あ、このトリックね」と思い当たるものが多かったので、コアなミステリファンには物足りないかもしれないが、少しばかりこれから古典ものにもチャレンジしたいという人にはお勧めである。値段もそれほど高くない古書であり、持ってると何かミステリファンとしてのレベルが少し上がった気にもなる……のは自分だけかもしれないが、紹介されているミステリの海外もの、国内ものの比率も良いので。
こういう趣旨の本で満足いくものを読んだことは未だにない。私の不勉強なのか、それとも江戸川先生の怨念に近い何かがトリック集成の完成を阻んでいるのか……完成度よりも読みやすさを重視した内容に70点としたい。 PR ![]()
無題
そう言う古本屋があるのが日本の良いところなのか、ないのが中国のダメなところなのか・・・本屋巡りが全然楽しくないよ。
この前「探偵小説を見直す」っていう推理小説読解本を買ったんだけど、悲しいかな先に触れられるのは欧米と日本のミステリで、肝心の中国のは後回しなんだ。 ただ、海外の現状やミステリの種類を列挙する手段はそれこそ江戸川乱歩先生を思い出させるので、中国のミステリ界はようやく正式なスタートを切ったと言えなくもない。
無題
日本は良いぞ。今度年末に狸小路で古本市があってな。ほら、いつぞや君に澁澤さんの本買ってったら、いらねって言われたアレ。
中国は海賊版という発想を捨てない限り、スタートを切れない気もする。みんながそうではないだろうが、亜流ではなく、アレンジをしてこそミステリだからね。もうトリックなんか石油みたいに枯渇してんだしさ、トリックも上手にエコしないと。上手にね ![]() |
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福田 文庫(フクダ ブンコ)
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1984/06/25
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コーヒー生豆を炒る
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24歳、独身。人形のゴジラと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
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