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edogawa.jpg『江戸川乱歩の推理教室』
(光文社文庫)
ミステリー文学資料館=編
個人的評価/60点
内容/
ミステリー小説の楽しさの一つに、「犯人当て」がある。張り巡らされた伏線を丁寧に読み解き、犯人を推理する醍醐味は格別だ。この本では、江戸川乱歩が関わった「犯人当て小説企画」からセレクトした短編を収録。ミステリーの名手が趣向を凝らして作り上げた「挑戦状」。


 昔から古典ミステリは嫌いなので卒論でも大いに苦しんだ私だが、最近ではこんな本で間接的にでも摂取しようという試みをしている。ウラキ少尉がキャロットケーキを食べるようなものだと考えて頂ければ、そんなに分かり易くないかもしれない。
 こういった謎解き本の類は、正直なところあまり好きではない。トリックの醍醐味だけを存分に味わうならば、短編もしくは中編がベストだと常々思っており、長編ミステリにはそれ以上のプラスアルファを求めているのだが、こうした謎解き本は一編があまりに短すぎる。その短さゆえ、トリックというよりは豆知識や珍しい自然現象に結論を求めてしまったり、暗に古典からの転用という嫌いがある。また出題する謎の一点のみに焦点を合わすので、他の点が蔑ろにされ、犯人の犯罪が破綻する話も何度か見受けたことがある。
 そんな訳で、この手の本で納得いったものは土屋隆夫先生の『九十九点の犯罪』くらいなものである。それで本書を選んだ。土屋先生の作品もあるし、あまり読み親しんでいない推理作家が多かった。それにミステリー文学資料館編集ということで、その名の通りに資料的価値を期待してのチョイスであった。
 結論としては、新保博久氏のあとがきにあたる解題に書かれた江戸川先生の謎解き本に対する思いなどに関した言及が一番面白かったといったところか。メインの各作家先生の掌編は……時代を感じたというのが正直なところか。ある意味では資料的価値を満喫した訳だが。個別の感想は以下の通り。たまにネタバレするのでお気をつけてお付き合い願います。
 
★楠田匡介「影なき射手」
 私は基本的に本格ミステリ至上主義なので、フェアに情報提示がされているかどうかにまず目がいってしまう。そういった点では、本書の中ではちゃんと提示されている作品であった。アンティークなトリックだが、硝煙反応を回避する方法はなかなか良いなと思った。
 
★鮎川哲也「不完全犯罪」
 敬愛する大先生に難癖つける真似はしたくないが、これはミステリとしては実に面白くないオチだと思ってしまいました。短い作品を依頼された時には倒叙もので対応することが多かったらしく、今回の作品もその例に漏れず倒叙である。
 犯人がどこでミスをしたのか、完全犯罪の綻びをいかにして見つけるかといった点に倒叙の面白さを感じるのだが、指紋関係のオチを持ってくるならばよっぽど面白く捻らないと客の反応は薄いと思う。
 この作品では、被害者を海岸からの転落死に見せかけようと犯人は被害者宅で殺して指紋を消して……となるのだが、そこでドアノブの被害者の指紋まで拭いてしまったという顛末。言ってしまえばそうだが、それがアリならいくらでも指摘出来そうな気がした。第一、死体の運搬にレンタカー使って、出血しないように殴り殺したといっても、それを易々乗せたら証拠残っちゃうじゃんと思ってたら回答編で、ちゃんと指摘があった。逆に言えば、この点のみでも犯人は逮捕できるので、解答の重要性を感じなかった。
 
★永瀬三吾「四人の同級生」
 途中までは良い流れだったのだが、オチがもう最低だった。
 死んだはずの男が実は生きていて犯行に及んだ! というのは、もう流れから想像が付く。遺書もなく、しかも死体が見つからない場合は大体生きてると思うのはミステリファンの嗜みだが、その犯人生存の決め手となるのが、死んだ(ことになっている)息子に手向けるために母親が買ったいなり寿司の金額が高いというだけなのは驚いた。貧乏な家なのに、当時の金額で三百円ものいなり寿司を折り詰めで買うなんておかしいという点がオチなんだが……弔いは惜しげなくやる貧乏人だっているだろうに。
 これはもうトリック云々ではない。単なる疑い深さのチェックだ。
 
★千代有三「語らぬ沼」
 雪密室みたいなものか。泳ぎに自信がある被害者が溺死する訳ないという考え方は、掌編の短さゆえ仕方ないと思うが、犯人の帰り道を全く考慮していない作りには驚いた。登場人物のいる場所から沼まで死体を担いで滑るというのだが、帰りの轍に関しては一切説明がない。解題でも「想像で補うしかない」と言われており、正直なところ一番ひどい作品だった……と言いたいが、もっとひどいのがまだあったのだ。
 
★宮原龍雄「消えた伊原老人」
 死体すり替えの一種だろうか。それにしても、血は赤いセロハンでそれらしく見せたというのは、もはや何でもありとしか言いようがない。誰が死体を運搬したかについてはまだ推理のしようがあったが、偽の死体に関しては想像にお任せレベルである。
 
★岡田鯱彦「毒コーヒーの謎」
 本書のワーストである。
 掌編でミステリを書くのは難しい。昔、今のところ人生で一度だけ本に載ったミステリが私は掌編だった。800字でダイイングメッセージものを書いたが、本当に難しかった。だがいくら難しくてもプロならそれ相応の対応があるべきだ。現に他の作品は創意工夫されているのだから。この作品を載せることは他の作家先生に失礼とさえ思える。このレベルの低さは逆に見ものかもしれない。
 
★鷲尾三郎「ガラスの眼」
 望遠鏡でマンション覗くのが趣味の男が殺人現場を目撃。殺した二人の人物が車で運搬しようとしているから追跡するも、一度も車は停まらず、それどころか積んでいた死体は車から消えていた……トリックの奇抜さは良かった。車の床に穴を開けてそれを直そうともしない犯人たちの大胆さにも目をつぶる。だが、何よりも納得いかないのが、何で覗き魔にフェイントかけなきゃらなんかということだ。
 探偵役は覗きを犯人たちは逆に利用して、覗き魔に死体は消えたと思わせたかったんだみたいなことを言うが、殺すところはバッチリ見せておいて何か意味あるのかなとすごい疑問だった。殺すところを見られてやむを得ずというなら、まだ分かるが……しかしながら計画犯罪なので、見られているのも計算のうちというのでますます合点がいかない。確かに覗き魔が警察に殺人で通報しても死体は出てこない。だからしらばっくれることは出来るといえばそれまでだが、だったら最初からカーテン閉めておけと言いたい。
 
★大河内常平「サーカス殺人事件」
 これが一番良かったかもしれない。サーカス団員四人が並んで首吊り殺人にあっているという光景は、サーカス団という怪しさとマッチして非常にノスタジイな怪奇さがあるし、何よりもトリックは納得が出来た。二階堂黎人の短編でサーカス舞台のものがあったが、あれの百倍は出来が良い。単純に私がアンチ二階堂というのもあるが、この作品はフェアという点からも一番の良作に思えた。江戸川小乱歩と名乗りたがった作者の持ち味が出ているように思える。
 
 何作品か割愛したが、私の特に印象に残ったものを掲載順に挙げさせて頂いた。
 都築先生の『推理作家の出来るまで』という作品からの引用で、
 
  昭和二十年代から、三十年代にかけての推理作家は、トリックをひとつ考えたら、まず現代推理小説につかい、次に捕物帳につかい、最後に児童推理小説につかう、といっていたくらい
 
 というものが、本書の解題で紹介されている。
自分の発明品であるトリックを、引用で挙げられただけでも三つの読者層にアピール出来るのだから、これはこれで私としては問題ないと思う。また、現代のミステリにおいては多かれ少なかれ、使い回しになってしまったり、リニューアルとなってしまうのは止むを得ないところがある。ある意味では、トリックというものは人間の思考から噴出す天然資源のようなもので、あらかた掘り起こしてしまった油田はすっかり枯渇しているのだから。
 話はやや逸れたが、こうして再利用したいくらい、トリックというものは尊いものなのである。有栖川先生も紅茶の広告に載せたインタビューで、ミステリ作家は、他の作家と違って、トリックが思いつくまでは作品の完成率は0%以上にはならない……といった趣旨の発言をされていた。とにかく、それくらい大事なものを謎解き本に惜しげも無く使えないのは当然であり、ミステリファンにとっても、ものの数分で分かってしまうよりはじっくりと読まされた方が有難みが増すというものだ。
 そういった点から見て、私はやはり最後に感想を綴った「サーカス殺人事件」が一番出来の良い作品であったと結論付けたい。確かに江戸川先生のあの作品に対するオマージュ的な部分はあると解題も指摘しているが、突き付けられる謎の魅力、フェアな情報提示と殺人に至る描写、そして鮮やかな解決といったものから見た総合点はやはり一番だろう。
 
 最後に。私がこうした謎解き本の中でも一番ひどかったと思うものを書いて終わりたいと思う。あまりにひどいので、本のタイトルなどは忘れてしまった。
 サービスエリアでうな重を食べているところを殺された人間がいて、関東から来たか関西から来たかを刑事が言い当てる。それは何故か? という問題だった。書くまでもなくうなぎの調理法で見分けるというのだが、こういうのが私は最低のものであり、ましてやミステリと銘打っただけにその名を汚す恐れすらあると思う。
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福田 文庫(フクダ ブンコ)
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1984/06/25
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 24歳、独身。人形のゴジラと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
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